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「柊生くん 顔色悪くない?」 車に乗り込んできた傑が心配そうに柊生の顔を 覗きこんだ。 「あぁ…ちょっと寝不足でさ」 「そんなんで運転平気? 家飲みにする?」 「いや、いい。肉食いたいんだ」 そう言うと傑は そう、と声を落として それ以上反対してこなかった。 向かったのは郊外の焼き肉店。 いわゆる高級焼肉だ。 個室になっているから、話しもしやすい。 「それで、どうしたの?」 適当なコースを注文して、傑はビールを 柊生はノンアルコールビールに口をつけて 傑がきりだす。 「俺、今日この後、人を迎えに行くんだ」 「…あぁ、だから飲まないんだ?」 「うん」 「……え? で?」 傑が訳が分からないという顔で先を促す。 「今、ソイツと一緒に住んでるんだ」 「……へぇ…え?誰だろ? 俺知ってる子?」 柊生はうなずいてノンアルコールを飲む。 「和真」 「……?誰だっけ?」 「週末…深夜に連れてっただろ」 傑の顔がみるみる強ばっていく。 「俺、やらかしたかも…」 「やらかしたな…」 いいタイミングで店員が入ってきて前菜や 肉を置いていく。 「杏菜のことは?話したの?」 傑がビールを飲みながら聞くと、柊生はただ うなずいてため息をつく。 傑は早い時期に柊生から杏菜を紹介されて 何度か会ったこともあった。 好きにはなれないタイプの女性だったが 柊生には意外に合うかもしれないと感じていた。 「杏菜の事を話したって事は… ただの同居人では すまさない感じだね」 柊生はまた何度もうなずいて肘をついて 顔を両手で覆った。 「毎日やってる」 傑がトングで肉を持ったまま固まった。 「和真の発情期は終わってるのに、俺の方が ずっと発情しっぱなしでぶっ壊しそうだよ… 薬増やすか、変えるかした方がいいかな。。」 これまでのいきさつを全て話した。 和真の発情期が終わっても自分だけがフェロモンを 感じていること。 噛みたい衝動にかられていること。 独占欲で、おかしくなりそうなこと。 杏菜との結婚をやめようと思っていることも。

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