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「きったな…!」 「アンタのせいでしょうが!」 二人しておしぼりでテーブルを拭く。 「上手すぎるんだよ…それなのに、アイツ今まで 男は1人しか経験がないって言うんだっ! どんなヤツがアイツにあんな事させてたのかと 思ったら、頭おかしくなりそうで…!!」 「しー しー!声でかすぎ!」 何故か聞いてる傑の方が赤くなってしまう。 「俺、、たぶん3分もたなかった…」 「あーハイハイ、そりゃスゲーな! 俺も一回お願いしたいよっ」 「帰る…」 「は?バカ! 冗談に決まってるだろ」 本気で立ち上がって壁にかけられた上着に 手をかける柊生を、傑が必死に止めた。 「傑くん、俺今そんな冗談も笑えないくらい 本気で病んでるんだよ」 「うんうん、ゴメンってば」 ストンと椅子に座り直し、真顔で考えこむ柊生を見て 傑は何だか無性に可笑しくなって笑いだした。 「バカにしてる」 「してないよ」 「自分でも分かってるよ」 「俺、今の柊生くん結構好きだよ」 柊生がキョトンとして傑を見た。 「全然人に興味がなくて、誰に対しても優しくて 紳士で、本心を見せないクールな柊生君より 人間ぽくて、いいと思うよ」 「ディスってんの?誉めてんの?」 傑はドリンクメニューを見ながら、どうかなと 笑った。 「医者として言うとαの薬は変えなくていいと 思うよ、量もね。他のΩに対しても過剰に反応 しちゃう訳じゃなさそうだし」 確かに、今他のΩのフェロモンは全く気にならない。 「俺には何となく分かるんだ。 柊生君がどうしてそんなに征服欲にかられてるか 分かってるからあんまり心配もしてない」 「何それ、急に医者みたいな事言い出しちゃって」 「教えて上げるから もう一杯飲んでいい?」 柊生は時間を確認して、うなずいた。 「柊生君は不安なだけだよ。セックスはしても 今の関係は恋人とは言いがたいし、あの子の 気持ちも見えなくて、ちゃんと自分の物だって 実感したいんだよ」 「じゃぁ関係が落ち着いたらラットも落ち着く?」 「そう思うよ。 柊生君、初めて人の心が欲しくなったんだよ 初恋おめでとう」 テーブルの上に置かれた柊生のグラスに 自分のグラスをコツンとぶつけて、傑が笑った。

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