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和真と政実が入店した時は、まだ3組ほどの客しか いなかったのに、気づくと いつの間にか店内は 満席で、大将も厨房の中を忙しなく動き回り すっかり和真たちに話しかける余裕はなくなって いる。 和真はゆっくりペースでビールを飲みながら 週末に起こった事を話した。 自分がΩであることと、柊生と寝ている事を かくして話すのは難しかったが 政実は、あまり細かいことは気にしないタイプ なので大丈夫だろうと思った。 事故の後、自分を心配してくれて、期限つきの 同居を勧めてくれたと。 そんなに風に話した。 「ネギがそんな軽率なことするなんて意外!」 ひとしきり話しを聞いた政実が、驚いた表情を 向ける。 「う、…そうかな?」 「そうだよ!ネギって人の懐に入るのは得意な くせに、警戒心が強くて、なかなかあと一歩が 近づけないキャラだったじゃん」 「そんなキャラだった?俺」 そう返しながらも、政実の言葉に驚いていた。 自分がまわりと距離をとって付き合っていたことが 政実にバレていたなんて。。 「それなのに、 いくら助けてもらったからって その人の家に転がり込んで世話になるなんて… どういう心境の変化? 」 隣に座る政実がテーブルの上で腕を組んで 和真の顔を覗きこんでいる。 「そう言われてみれば、家のこととか仕事の事 色々あって、ちょっと、どうにでもなれって 思ってたかもな」 和真は視線を合わせずに答えた。 ー お前に失恋して自暴自棄になってたのかもな …なんて言えない。 「そっか、そりゃそうもなるよね~」 政実は無邪気に笑って、和真の肩を元気出せ、と バンバン叩いた。 「でもさ~ その人ホントに大丈夫なの? 下心なんにもないとか信じらんないな~」 「大丈夫だって、本当にイイ人なんだ」 ー もうやってるし 「わっかんないよ~ 食べるタイミングをうかがってるだけかもよ」 「イヤイヤ、ナイナイ」 ー もうやってるし 「やけに かばうね。。本当、ネギらしくない」 政実に子供のような純粋な目でじっと見つめられ 罪悪感で変な汗が出てくる。

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