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…
「迷わなかった?」
シートベルトをしながら柊生に声をかける。
「うん、大丈夫」
「こんなトコまで、来させてゴメンね」
柊生は笑って首を振って。車を発車させた。
それから会話が途切れてしまった。
和真が何か話しても、相づちをうつくらいで
柊生の方からは何も言ってくれない。
ー 機嫌悪いのかな?
「柊生さん疲れてる?」
「…いや、別に」
和真は少し不安になってくる。
こんな時間に足のように使ってしまって
やっぱり不愉快だったのかもしれない。
「…何か怒ってる?」
柊生は応えず、運転席のドアに肘をついて
咳払いをするように、口許に手を置いている。
ー 何だろうこの気まずい空気。。
和真は訳が分からず小さく ため息をついた。
「カズ…ずっと居酒屋にいた?」
「へ? そうだけど?」
「あ、そ…」
「なによ?」
また気まずい沈黙が続くのが嫌で聞き返す。
「オス臭い」
「…は?」
「すごい臭いがついてる…何してたの?」
何言ってんの?と突っ込もうとして
ハッとする。
ー ストールだ!!
「あ、分かったコレじゃない?」
和真はストールを脱いで、柊生の顔に近づけた。
「…確かに、それかも…借りたの?」
柊生が顔をしかめて聞いてくる。
「違うよコレ俺のなんだけど、ずっと政実の家に
置き忘れてて、今日持ってきてくれたんだ」
外したストールをバックにしまった。
「柊生さん犬なの?」
和真は疑いが晴れて、少しホッとして笑ってしまう。
「俺も驚いてる」
信号が赤になって車が減速すると
柊生が和真の首を捕まえて強い力で引き寄せた。
「!!?…なっに?」
キスされるのかと思ったら、耳元で柊生の呼吸を
感じただけだった。
「酔って甘えた?髪も臭うよ」
信号が変わると柊生は和真を離し、また走り出した。
「あ、甘えてない!あまえたりしない!
俺は自分の事βだって言ってるのに
そんな事しない…!!」
あらぬ疑いをかけられたことで動揺して
心臓が速くなる。
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