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唇を噛んで柊生を見る。 柊生は頬杖をついたまま、相変わらず無表情で 和真を見ている。 和真は耐えられず目を閉じた。 「後ろ向いて」 何の感情も感じない声が聞こえて 言われるまま後ろを向く。 壁には、大きな鏡があり、裸の自分と目があった。 その自分の肩越しに柊生が映って見える。 その目もやっぱり無表情だった。 羞恥心から動悸がしてきて呼吸が苦しくなる。 ー 何なんだこれ、人の裸あんなに まじまじ無表情に眺めるって、どんな神経? 「まだ?」 和真はチラリと後ろを見て訊ねる。 柊生は両手を後ろについて、組んだ足をプラプラさせて こっち見て、と言った。 和真が振り向くと、今度はとんでもなく イヤらしい顔で笑ながら、なめ回すように 下から上までじっくり見られる。 ただでさえ うるさかった心臓が更に激しく 鳴り始めた。 「じゃぁ、今度は…」 柊生が口を開いた瞬間、耐えきれなくなった和真は 柊生の膝に飛び乗るようにして、抱きついた。 勢いで柊生が後ろに倒れて 成り行きで押し倒すようになってしまう。 「もう、ムリムリムリムリ!! めちゃくちゃにしていいからっエッチして!!」 ー こんな、どシラフの人にじっとり見つめられ 続けるなんて耐えられない! 多少痛いことされてもセックスの方がマシだ! 柊生の首に、ぎゅう~っとしがみついて死んでも 離すもんかと思う。 密着することで、柊生の視界から自分を 消したかった。 その時、耳元で吹き出して笑う柊生の声が聞こえた。 「あーもうダメ! カズ可愛すぎ~」 そう言って、和真の頭を撫でて 優しく抱きしめてくる。 カズは驚いて柊生の顔を見た。 柊生はよっぽど可笑しいのか涙を浮かべて まだ笑っている。 「な、なに?」 「ゴメンね、怒ってると思った?」 「あたりまえでしょ!」 「本当はそんなに怒ってた訳じゃないけど ちょっと、いじめたくなって…」 「バカッ!!」 和真は本気で柊生の胸をグーで何度も殴った。

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