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「柊生さん…本当にもう怒ってない…?」 和真が半分眠ってるような、おっとりした声で 聞いてくる。 そんな事忘れてた。 「怒ってないよ」 「でも、気にしてない訳じゃないからな」 一応、釘は指しておく。 和真は黙ってうなずいた。 あんな あからさまなマーキングを許すなんて…。 誰にでも尻尾を上げてすり寄っていくのかと思ったら 血が逆流するような怒りが込み上げて 車に乗り込んだ直後は、そのまま車の中で ねじ伏せたくなるような衝動にかられた。 でも必死で弁明する姿や、窮地を脱するために 吐いた言葉が、いちいち可愛く胸に刺さって あっという間に怒りは消えてしまった。 自分はとことん、この生き物に弱いんだなと思った。 こうして自分の腕の中に帰って来てくれれば それだけで 何でも許せてしまいそうだ。 頼りない背中をぎゅっと抱いて目を閉じた。

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