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24.近づきたい
帰れたのは結局 深夜だった。
夕方に始まった外での打ち合わせが長引いて
帰社する前に、打ち合わせの延長で食事をすることに
なってしまい、会社に戻って事務処理をしていたら
11時をあっという間にまわってしまった。
これは日にちを跨ぎそうだ…と観念して
前もって和真には先に寝ていて、と連絡だけ
入れておいた。
和真からはすぐに、お疲れさま、了解。と
短い返事があった。
週末に仕事を残したくない一心だった。
やっと1日一緒に過ごせるのだから…。
家に帰るとリビングの電気が点いていた。
でも部屋からは何の音も聞こえない。
柊生は小さな声で ただいま、と言いながら
リビングのドアを開けた。
テレビがアプリの画面を映した状態で止まっていて
和真がソファーに丸くなって眠っていた。
薄いブランケットを体に巻き付けて寒そうに。
ローテーブルの上には
飲みかけのマグカップと、引っ越し業者の見積りが
置いてあった。
「…安っ」
思わず小さくこぼした。
和真は静かな寝息をたてるだけで
ピクリとも動かない。
柊生はソファーの下に座って
呼吸が届きそうな距離で
眠る和真の顔を眺める。
頬の傷も唇の傷も、だいぶ薄くなっているのが
嬉しい。
早く無傷の和真が見たい。
そう思って笑った。
目にかぶる前髪に、柊生が息をフッと
吹きかけると、和真が眉を寄せて反射的に手で
顔を庇う。
「風邪ひくぞ ベッドで寝ろ」
「 …あれ? お帰り…」
目が開ききらない和真が手足をウーンと伸ばす。
「ご飯ちゃんと食べた?」
「うん、キミちゃんが来て作ってってくれた」
「よしよし」
柊生が和真の頭を撫でた。
「あ、触った」
「まだ 言ってんの」
和真はむくりと起き上がって、動画、と一言。
「後で消すから。疲れてるんだから癒して」
そう言うと、和真が考えるように柊生をじっと
見つめる。
「……柊生さん お疲れさま」
そう言って手を広げて笑った。
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