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…
「俺は全然いいけどさ…温泉旅館で年越しって
セレブっぽいね」
「セレブは海外だろ。海外もいいけどさ
今年はガツガツより、しっとりがいいなって…」
「…なんかエロ…」
和真が目を細めて柊生を見る。
「そういう意味じゃないって!
…じゃぁ、もう予約しちゃうからね!」
ー まぁ そういう意味か…
「うん、了解!スゲー
俺、温泉旅館なんて初めて」
「え、マジ?」
「うん、まぁΩだから…温泉とかちょっと
苦手意識もあって…でも、柊生さんとなら平気かな」
和真は両手で膝をパンと叩いて立ち上がった。
ー え、俺とならいいって?…か、かわいい。
確かにΩの和真からすれば大衆浴場なんて
女性が混浴に裸で入るような緊張感だろう。
「そこは大浴場も いいけど
部屋にも露天風呂あるから、そっちもかなり
雰囲気いいし、心配しなくても楽しめるよ」
ふたりで洗面所で歯みがきしながら話す。
和真が歯ブラシを咥えて、へぇ~と目を輝かせて
聞いている。
口をすすいで、鏡に映った自分を見て
「なんか嘘みたいな世界だなぁ…」
と、どこか他人事のような顔で言った。
和真から 携帯ね!と催促されつつ寝室に入る。
「カズそんなに見たかったの?」
「バカ!ちゃんと消したの確認しないと
落ち着かないんだよ!」
ベッドに座って壁に背を預けると
和真がピッタリと隣にくっついて、顎を柊生の肩に
乗せた。
「じゃぁ見るよ!」
「はー…どうぞ……ホントにすぐ消してよ」
和真はすぐに携帯を奪えるよう、柊生の手首を
捕まえている。
動画には 実は ほとんど和真も柊生も映っていない。
和真の胸から上、しかも顔半分が映るか映らないか
というくらいのギリギリで、画面のほとんどは
部屋を映している。
そんなわけで行為そのものは ほぼ見えないが
和真の表情や声はそれなりに残っていて
逆にそれが生々しく、いやらしく感じた。
「これ、本当に俺の声!?」
和真は言いながら柊生の肩に顔を伏せて
携帯から目をそらした。
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