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25.君のとなり

和真は翌日から それなりにバタバタ過ごした。 午前中に届いたバイクに、久し振りに乗って 自分のアパートに行き貴重品や、必要なものを 整理して、人目に触れず処分したい物は処分した。 引っ越しの手続きをして、あれこれ電話して…。 次にここに来るのは引っ越し業者の来る月曜だ。 ボロ屋だったけど、駅からも近く、大家も親切で 意外と気に入っていた。 ここを出ていく実感はまだない。 週末は柊生に買い物につれ回され、半ば無理矢理 色んな物を買わされた。主に身に付けるもの。 服や靴。普段着から、フォーマルまで。 「フォーマルがないと連れて行けない店がある」 などと言われて 始めは遠慮していた和真も、途中からはもう 無駄な抵抗をやめ、柊生の好きにさせて 着せ替え人形に徹した。 和真はもともと物欲がないので、必要に迫られ なければ衣類は買わない。興味もお金もなかった。 そのため柊生が勝手に選んで買った物でも それが自分の好みではなくとも平気だ。 「カズはアクセとか買っても しなさそうだな」 疲れて休憩のカフェで、柊生がラテを飲みながら 聞いてくる。 「しないね」 ブラックをゆっくり飲みながら答えた。 この調子で装飾品なんて買われたら恐ろしい。 「時計は?」 「…今はいらない。携帯あるし」 そういえば、今まで使っていた腕時計が 先日の事故で壊れた。 でも安物だったし、無くても別に困らなかった。 なにより今は柊生の買い物スイッチを入れるのが 一番怖い。 「首輪…は、やだよね」 和真が驚いて柊生を見た。 柊生が言ってるのは、Ωが自衛のために身に付ける チョーカーだ。 暴力によって強引に番にされてしまう心配は 無くなるが、自分がΩだとアピールすることにも なってしまうので、別のリスクも生まれる。 「俺、自分のことβだって言ってるのに するわけないでしょ」 半分笑いながら言った。 「だよね」 すぐに諦めた。柊生もきっと、どちらのリスクも 理解した上で、強く押しつける事ができなかった のだろう。 それにαから贈られた首輪なんて 指輪なんかよりずっと重い、所有の証だ。

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