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…
そういう意味でも強く言えなかったのだろう。
「さてと、そろそろ行くか」
「まだ何か買うの?」
「時計は見たかったけど今度でいいや
次は知り合いのサロン」
「…サロン?」
「髪、伸びすぎでしょ。これから就活するヤツが」
まぁたしかに伸びすぎて縛れそうだ。
「俺が行ってるところだから心配ないよ」
心配はしてないんだけど…別にその辺の
千円カットでいいのに、という言葉は許されない
だろうと思って言わなかった。
連れて行かれたのは雑居ビルの2階だった。
1階には何やらセンスの良さそうな花屋。
横には2人並んでも余裕で登れる広さのある階段。
外からはそこに美容室があるようには見えない。
サロンに入ると感じのよい女性が出迎えてくれた。
広い店内の奥にある個室に通される。
個室とは言ってもドアはない、他の席や客から
見えない作りになっているだけだ。
少し待つと、奥から背の高い男性があらわれた。
「柊生ちゃん、急すぎ、、ウチそんなに
暇じゃないんだけど?」
「ゴメン、ゴメン
でもダメならいいって言っただろ?」
「そりゃ、男の子連れてくるなんて言われたら
見たいでしょ」
恐ろしくキレイな顔の男性が、チラリと和真を見た。
「あんまり見ないで」
和真がドキドキする前に柊生が視界の間に割って入る。
「いや、カットするんだから見るでしょ」
男性が柊生を どかそうと肩に手をかける。
「いや、見ないで」
柊生がさらに間に立ちはだかる。
「めんどくさ!」
「めんどくさい!」
和真と男性の声がハモった。
「三井です。よろしく」
男性が頭を下げながら笑った。
「根岸です」
つられて頭を下げた。
三井は凄みのある美形だ。意思の強そうな眉に
彫りの深い顔立ち。
和真は髪を触られながら鏡ごしに
まじまじと三井を眺めた。
「カズ見すぎ」
施術台の後ろのソファーに座った柊生が
頬杖をついて不機嫌そうな声を上げる。
「え、だってこんなモデルみたいな人
いたら見るでしょ」
それを聞いて1番笑ったのは三井だった。
「キミなかなか言うね」
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