119 / 234
…
「何か言え」
柊生がごまかすように、ポケットの中の手を
グッと握って揺すられる。
言葉なんて出ない。何か言うどころか
顔だって見ていられなくて顔を伏せた。
そんな優しく見られたら泣いてしまいそうだ。
違うと言いたかった。
遊びだなんて思ったことなんてないって。
自分が悪いなんて言うなと言いたかった。
でも、ひとつも言葉にすることはできなかった。
きゅうっと締め付けられるような心苦しさと
同じくらい
柊生の言葉が嬉しくて。
そんな風に感じる自分が恐ろしかった。
心臓がふるふる震えて止まらない。
「おなかすいた」
うつむいたまま、そう言うと
柊生が大げさに笑った。
「今、それ言う?」
和真がコクコクうなずくと、柊生が頭をポンポン叩く。
「カズはそれでいいよ」
そう言ってポケットの手を恋人繋ぎに、繋ぎ直す。
「ラーメン行こう!ラーメン!
旨い店があるんだ」
そう言って急に方向を変えてぐんぐん歩き出す。
子供のように笑ってくれる柊生を直視できない。
自分のズルさを許してくれる柊生。
ー あぁ、神さま。
いつかこの人に何か返せる日が来ますように…
ともだちにシェアしよう!