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「何か言え」 柊生がごまかすように、ポケットの中の手を グッと握って揺すられる。 言葉なんて出ない。何か言うどころか 顔だって見ていられなくて顔を伏せた。 そんな優しく見られたら泣いてしまいそうだ。 違うと言いたかった。 遊びだなんて思ったことなんてないって。 自分が悪いなんて言うなと言いたかった。 でも、ひとつも言葉にすることはできなかった。 きゅうっと締め付けられるような心苦しさと 同じくらい 柊生の言葉が嬉しくて。 そんな風に感じる自分が恐ろしかった。 心臓がふるふる震えて止まらない。 「おなかすいた」 うつむいたまま、そう言うと 柊生が大げさに笑った。 「今、それ言う?」 和真がコクコクうなずくと、柊生が頭をポンポン叩く。 「カズはそれでいいよ」 そう言ってポケットの手を恋人繋ぎに、繋ぎ直す。 「ラーメン行こう!ラーメン! 旨い店があるんだ」 そう言って急に方向を変えてぐんぐん歩き出す。 子供のように笑ってくれる柊生を直視できない。 自分のズルさを許してくれる柊生。 ー あぁ、神さま。 いつかこの人に何か返せる日が来ますように…

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