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「俺が言える事なんて 何も無いよ…」 和真が目を会わせずに言う 「…何で?」 「うーん…言う権利がない?」 「権利って何だよ」 イラついた柊生の口調がまたキツくなる。 「え、何だろう…?」 動揺した和真が視線をおよがせた。 「俺は権利も何もないのに、カズにアレコレ 言ってるけど…?」 「柊生さんにはそうしていい理由があるじゃん」 「は…?お前それ、まさか金の話し?」 「それだけじゃないけど…俺と柊生さんじゃ 立場が違うっていう意味?だよ」 「何だそれ…じゃぁ俺がお前の住むところとか 色々、面倒をみてるから俺の言うことを 素直に きいてるの? もし 1円も金だしてなかったら、もっと…」 「そういう訳じゃないけどっ…」 和真があわてて否定する。 ー あぁ、ダメだ。俺と和真の関係は コイツの頭の中では、ほぼ援交なんだ。 衣食住を頼る代わりに体を差し出して あれこれ口うるさい指示にも素直に従う。 まぁ最初にパパになるなんて言ってしまったのは 俺だ 俺にも責任はある。 ため息をつきながら 柊生は腕時計を見た。 「もういい、帰ってから話そう」 あわてたように、行ってきます、と言って 和真の顔も見ずに出ていった。 閉まったドアをただ呆然と見つめて 和真は 立ち尽くした。 心臓がドキドキしている。 ー 怒らせた、、キスもハグもしないで 出ていくなんて… ドアの前から離れられない。 また突然戻ってきてくれるんじゃないかと 期待して。 でも、柊生は戻ってこなかった。 やっぱり何も言うんじゃなかったと 激しい後悔に襲われた。 杏菜に会うと聞いてから、ずっとふわふわと思考が まとまらず。 自分でも何でこんなに落ち着かないのか、分からな かった。 柊生に何て言えばいいのか分からなくて 婚約解消がんばって! とかは、違うし… 婚約解消するべきじゃない! なんて…、ここに居座ってる自分が言える 言葉じゃない。 黙っていつものようにキスをして いってらっしゃい、とだけ言えば良かった。 「やり直したい」 1人で小さくこぼした。 この朝をやり直したい。

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