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29.ユートピア

さすがにグッタリだ。 そのままベッドに倒れて 泥のように眠りたかったが 和真を浴室に運んで体を流した。 顔をタオルで拭いていると 和真がうっすら目を開ける。 「…あ、、ゴメン、ありがと…」 「気づいた?」 「ん…」 目は開いたが放心状態だ。 「とりあえず体は洗ったから 歩けそうなら先に部屋行ってる?」 そう聞くと、少し考えてコクリと頷いた。 でも立ち上がってみたら和真の膝がガクガク 震えて、一歩踏み出すのもキツそうだ。 「あー …足と腰にきてる…」 自分の体の状態を笑う。 「危ないから無理するな」 そう言ってもう一度座らせた。 寝る準備を整えて寝室に戻った時には 1時を過ぎていた。 下着とガウンだけ羽織り 二人でベッドに潜り込む。 ガウンの隙から、ついつい手を入れて 和真の腹や腿を サワサワしていると また下半身が熱くなった。 「フフ、、なんか当たってる」 「本当、俺 今日ぶっ壊れてるな~」 「俺もう無理だよ」 「分かってるよ」 抱き合ってるだけで幸せだ。 和真の あの電気の止まった部屋で 初めて 抱きしめた日を思い出す。 ついこの前の事なのに もうずいぶん長い時を一緒に過ごした気がした。 「…俺いま幸せだ」 開放されたままのカーテンの向こうの 空を見つめながらポツリとこぼした。 和真が背中に腕をまわして ぎゅっと抱き返してくる。 「うん、俺も…」 1人言のように言った言葉を拾ってもらえて 嬉しさで舞い上がった。 「ありがとう」 「……何きゅうに」 「杏菜に言ってくれたこと」 「……」 「半分は演技だったとしても… 実はめちゃくちゃ嬉しくて…」 「…そんな喜んでもらえる事…言ったっけ?」 「言ったよ」 和真は はぐらかそうとするだろうと 何となく分かっていた。 それでもよかった。 「..俺…たぶん一生忘れないと思う」

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