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その日は昼過ぎから雨だった。 2人で映画を見に行って、和真の待ち合わせの時間まで お茶して時間をつぶし、駅まで柊生が車で送った。 約束の時間より早く着いたので、車をロータリーに 停めて、車内で少しの間 話しをする。 「店の前まで送るけど」 「すぐそこだから大丈夫だってば」 「…帰りも雨強かったら店の前まで行くから 連絡しろよ」 「ハイハイ」 和真が適当に返事をして笑った。 「イチャイチャ禁止だからな!」 「しないし! あーもう、そろそろ行くね」 言いながらストールを巻き始める。 「あ、和真ここ…」 柊生が自分の首筋を指差す。 「ちょっと場所が際どすぎて、油断すると 見えちゃうから、気を付けて」 「マジ!?」 和真が慌ててバックミラーを自分に向けて 覗きこんだ。 「ホントだ!何で今言うの? 出かける前に言ってくれたらシャツにしたのに」 今日の和真は白に近いベージュのフーディだ。 「ゴメン、ゴメンさっきカフェで気づいたんだけど まぁいっか、って思って」 柊生が悪い顔で笑った。 ー 絶対わざとだ! 和真の首の付け根には、昨日の夜のキスマークが くっきりと残っていた。 「でも、今日友達には俺のこと話すんでしょ じゃぁまぁ そんな事もあるなって、見てみぬフリ してくれるよ」 「他人事だな」 和真は不機嫌そうな顔でストールを巻いた。 「あ、カズ待って」 車を降りようとする和真の腕を柊生がつかむ。 「ちゃんとキスして行って」 「…ヤだよ。家じゃないんだから…人に見られる」 「見えないよ、車の中だし」 「見えるよ」 めんどくさくなった柊生が、和真の首をつかまえて 強引に唇を重ねた。 「よしよし」 柊生が満足そうに笑って、唇を離し 頭を撫でる。 和真は回りをチラチラ見ながら、慌てて荷物を持つ 「じゃ、行くから」 恥ずかしさで目も見ずに車を降りた。 「ちゃんと電話しろよ」 歩き出そうとする和真に、柊生が窓を開けて 声をかけた。 和真は小さく頷いただけで、ちゃんと顔も見ずに そそくさと歩いて行ってしまった。 「照れちゃって」 柊生は笑いながら、和真が見えなくなるまで 傘をさして歩く後ろ姿を見送った。

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