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…
「じゃあな! “俺のネギ” 」
「誰がおまえのネギだよ!」
政実はいつもの人懐っこい顔で笑って、和真の
頭を撫でた。
「これからもよろしく “誰かのネギ”」
そう言って左手を出して握手を求める。
和真はそれを見て、わざと面倒くさそうに笑いながら
握手に応じた 。
左利きの和真にあわせて出された左手。
政実はそれを大きくブンブン降ってから離した。
「じゃあな」
「おう、二人によろしく」
和真の言葉に頷いて、政実はポケットに片手を
突っ込んで、小走りに去って行った。
政実の紺色の傘はすぐに、行き交う人の陰になり
見えなくなった。
ー 長かった片想いが 終わった
ハッキリと そう感じた。
政実が言ってたように、口にはしなくても
和真も政実のことを、ずっと自分の物のように
思っていたのかもしれない。
恋人ができても、その思いは消える事はなかった。
我ながら図々しい。
本人はどんなつもりで言い出したかは分からないが
和真にとっては、気持ちの区切りをつける決定打を
政実がくれた。
ちょっとやらかしてしまったが
今はこれで良かったと思える。
回りを見回して柊生の車が無いことを確認してから
駅のトイレへ向かった。
歩きながら携帯を出して、柊生に電話をしてみる。
反省点があるため、ただの電話なのに妙に緊張
してしまう。
(どうした?)
「ゴメン、運転中?」
(スピーカーにしてるから平気)
「ちょっと早く終っちゃったんだ」
(マジ?まだ10分以上かかるな~)
時間を見ると11時20分を過ぎたところだった
約束では11時半~12時の間くらいと伝えていたから
それに合わせて出たのだろう。
(店で少し待たせてもらえば?)
「もう出ちゃったし、10分くらいなら駅で待ってる
トイレも行きたいし」
(……分かった)
「急がなくていいからね。気を付けて」
(了解)
電話を切って、ロータリーの目の前のトイレに
入る。駅の中まで行かず外からすぐに入れるので
都合がいい。
ー ああ~ 緊張で膀胱がヤバい。
今はこんなに優しい柊生を後で別人のように
怒らせてしまうなんて。。
トイレで用をたしながら、ため息をついた。
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