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ー 和真じゃない 和真じゃない 和真じゃない… 足が震える 震えるのは 怖いからじゃない 中にいるのが 誰なのかを考えると 勝手に震えるんだ トイレに足を踏み入れると中の様子が さらに明瞭になる。 木製の壁でしきられたトイレの個室の中で 絶えず、獣のうめき声のような声が聞こえて 全力で暴れているのか… 壁に体や何かをぶつける音が響いている。 和真じゃない。 声を聞いてもそう思った だってそんな獣のような声聞いたことない。 でもその思いは 奥を見渡せる位置に立ったとき 打ち砕かれた。 トイレの奥に、揉みくちゃにされて 落ちているストールとバック。 今日 ついさっきだ…ほんの数時間前 車の中でそれを巻いて むくれた顔でバックを抱えて出かけていく 和真の姿がフラッシュバックする。 その瞬間、弾かれたように トイレの個室へ走った。 ドアは開放されていたから 直ぐにその凄惨な光景が目に飛び込んできた。 中の壁に押し付けられた状態で 肘で首を締め上げられ もがいて 下着ごとずり下ろされたズボンは 膝の辺りまで下げられ 白い下半身が晒されていた。 そして微かに香る 良く知った香り ひどい耳鳴りがして、そこから意識が飛んだ。 震えも、心臓の音も消えた。 「 和真! 」 柊生の声に振り返ったその男の口許が 赤い血で滲んでいた。 ー ま さ か… 柊生は男の襟足と腕を掴んで個室の外に 投げ飛ばした。 支えを失った和真の体が 壁に擦るようにして、その場に崩れおち ゲホゲホと吐きそうなほど咳きこむ。 その首は血で赤く染まって、白いフーディが 肩甲骨まで避けていた。 「ウ、ソ だろ…」 言いながらかけよって抱きしめると 和真が今にも失いそうな意識の中で、震える手で 必死でズボンを上げようとしている事に気づいて それを手伝った。 首筋にはハッキリと噛んだ跡。 目眩がした………。 投げ飛ばしただけでは飽き足らない 柊生は和真を残して立ち上がると 転がってるナイフを拾う 無様に下半身をさらしたまま倒れている男に ゆっくり歩み寄る。

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