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遠退いた意識の底で 柊生の隣で過ごした日々が甦る。 色々あったはずなのに 浮かんでくるのは 柊生の優しい笑顔ばかりだ。 ー 柊生みたいな人に愛されるなんて やっぱり俺には分不相応な幸せだったんだ。 これは罰だ。 俺なんかが柊生との未来を夢見た罰。 Ωという性を利用して 杏菜さんみたいな人を傷つけて…。 俺……誰かを傷つけても 側にいたかったんだ。 政実にだってこんな風に思わなかった。 誰かを傷つけるのも 自分が傷つくのも怖くて避けて。 でも柊生は…。 手足の冷たさを感じた。 ー 寒い。早く柊生の家に帰りたい。 柊生の匂いのするベッドで眠りたい。 遠くで誰かが言い争う声が聞こえる。 「……だから、誘ってきたのはそっちだって フェロモン振り撒いて、迷惑な話しだよ」 「コイツは今ヒートでも何でもねぇよ! お前は誘ってきた奴をナイフで脅すのかよ!」 「まぁまぁ お兄さん落ち着いて」 遠くで救急車のサイレンが聞こえる。 薄く瞼を開けると まだそこはトイレの中だった。 少し場所は動いていたけど 柊生に上半身だけ抱えられたまま 足は冷たいタイルの上に投げ出して。 柊生もほぼ座りこんで和真を抱えていた。 どこから持ってこられたか分からない毛布が 巻き付けるように和真に掛けられていて 柊生がハンカチで和真の首を押さえていた。 警察官が1人近づいてきて柊生に声をかけた。 「救急車来たんで、、」 何人かの救急隊員も入ってきて 和真のケガの具合を確認している。 「カズ、カズ」 弱々しい声で呼ばれて 重い瞼を上げた。 「カズ! 大丈夫? 今から病院行くから」 「…いやだ…かえりたい」 「怪我してるから…」 「嫌だ、帰る帰るっ」 柊生の胸にしがみついて 子供のように泣いた。 「一度付き添ってもらって大丈夫ですよ」 警察官がそう言って、柊生が じゃぁそうします、と即答した。 「俺もずっといるから大丈夫だから…ね」 柊生が頭を撫でてそう言って ようやく和真はうなずいた。 それを見て柊生は毛布で和真の顔をそっと覆って 抱き上げる。 「お前、何人目の彼氏なの?」 トイレの奥で警察に話を聞かれていた男が 柊生をからかうように言った。 「さっき居酒屋にいたヤツともイチャついてたぜ 首のマーキングはお前?違ってたらウケる」 首筋を指差しながら 下品に笑う。

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