179 / 234

35.君が僕の勇気

夜中に携帯がなる。 寝ようとベッドに入ったばかりの頃だった。 画面を見ると親友の名前が表示されている。 「なに、また誰か轢いたの?」 わざわざ夜中に電話をかけてくるなんて 余程の事だ。 「傑くん起こしてゴメン 今、中央病院にいるんだ」 「え?」 声の様子から、ただ事ではないとすぐに分かった。 「和真が、襲われて…噛まれた」 「……うそ」 「噛まれたけど、たぶん番は成立してない 未遂だったんだ」 その言葉を聞いて、力が抜ける。 「でも、色々…混乱してて…俺ダメだ」 「すぐ行く」 着替えをして 鏡も見ずに家を飛び出した。 ・ ・ ・ 傑が病院に駆けつけると 点滴をして、和真は眠っていた。 柊生はベッドの傍らに座り、和真の手を両手で 握っていた。 「ちょっと興奮状態だったから安定剤を 入れるって…」 柊生が真っ青な顔で言った。それから 外で話そう、と言って立ち上がり 電気の灯っていない廊下に2人で出た。 「頭打ってて、診察した様子では大丈夫みたい なんだけど…何度か吐いてて、意識も朦朧とした 感じがあるから、念のためって、CT撮った」 「うん」 「警察の人も一緒に来てて 検査をした方がいいって…証拠を残すための ……知ってる?」 「……うん知ってる…キットでしょ…」 「…そう、それ…。でも和真は未遂だから… 必要ないって…やりたくないって」 「うん」 「俺も必要ないと思ったんだけど…警察の人が 俺に知られたくなくて、未遂だって言ってる 可能性があるって… 混乱してたり、自分でそう 思い込もうとするケースもあるって… 検査は今日しかできないから、後になって やっぱり訴えたいって思っても、証拠が 残ってないのは不利になるって…」 「うん、ただでさえΩは不利だからね」 「俺…もう… どうしたらいいか分かんない…」 柊生は俯いて手で顔を覆った。 肩の震えで泣いているのが分かった。 こんな風に柊生が大っぴらに泣くのは 初めてじゃないだろうか。 「噛まれたって言ったじゃん 噛まれた上にレイプされてたら 番 成立しちゃうよね?」 「俺もそう思ったけど、前後逆になってないかって」 「先に挿入されて、抜いてから噛んだ? 噛む意味ないよね?」 「和真が暴れて… 抜けたんじゃないかって… それから噛んでもう一度しようとしたんじゃ ないかって…」 「……まぁ…なくもないか」

ともだちにシェアしよう!