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柊生はカーテンの外側に立っている傑を見た。 傑は無言で小さく何度か頷いた。 「…カズ、悔しくない? アイツお前のこと悪く言って自分の罪を 軽くするつもりだ」 「…悔しいよ、勝手なこと言われて… 死ねばいいのにって思うよ… でも、どうだっていいんだ…そんなの 結局アイツの好きにはされなかったし 俺はすぐに忘れてやるっ」 「…アイツまた同じ犯罪を犯すかも」 1人の警官が言った。 「…検査しても結果は残念ながら 変わらないですよ 俺 やられとけばよかったかな」 「カズ!冗談でもやめて!」 和真は柊生の声に驚いて肩をすくめてから 小さくごめん、と謝った。 「俺が本当に何もされてないか…心配? 柊生が来てくれたから助かったんだよ 警察の人が駆けつけてくれた時じゃ、きっと 間に合わなかった…。 俺はウソなんて言ってないけど、でも 柊生が気になるなら検査受けるよ ……あれ以上の屈辱なんてないから… 検査くらい何でもない」 「カズ…」 病院に運ばれて来た時には、軽いパニック状態だった。 ぼろぼろの服を脱ぐのも拒否して、体を診せるのも 嫌がって、吐いて…。Ωの警官との話しも まともに できなかった。 さっきまでの和真では、警官の言うように もしかしたら、柊生には、安心させる為のウソを 言ってるのかもしれない、と思えた。 でも、それは柊生にとって重要じゃなかった。 あんなのはただの暴力だ。 セックスですらない。 あんな暴力で和真は汚れない。 和真がなかったというならそれでよかった。 でも、時間が経って冷静になったときに 和真が、やはりあの時証拠を残しておけば…と 悔やむ姿も見たくなかった。 でも今の和真なら、大丈夫だ。 きっと…大丈夫 2人は大丈夫だ。 「帰ろうか…カズ」 柊生がそう言うと、和真の鳶色の瞳がじっと 見つめてくる。 柊生の心の底を覗きこむようだった。 それから握った手に力がこもった。 「うん、帰る…」

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