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「じゃぁ そろそろ帰るよ」 「あぁ、悪かったな急に」 「最後もう一回顔みてっていい?」 「………」 「いや、医者としてな」 「ああ、じゃぁドウゾ」 和真は静かに寝ていた。 特にうなされた様子もない。 傑は和真の額や手に触れて 柊生の顔を見てから、少し頷いて 部屋を出た。 「また何かあったら連絡して」 「ああ、ありがとう」 柊生は傑を送るため、一緒に外に出た。 「バカって言ってくれて良かったよ。 傑君の言うとおりだ…。ありがとう」 エレベーターを待ちながら柊生が目を合わせずに 話し出した。 傑は何も答えず柊生を見つめた。 「話せて良かった」 「うん…呼んでくれてよかったよ」 エレベーターが来て乗り込もうとした傑が 何か考えて、乗らずに戻る。 「…柊生君、言おうかどうしようか迷ったんだけど もうひとついい?」 「うん?」 「和真君には病院で話したんだけど… 昨日の事を思い出して、辛くなったら 相手は誰でもいいからどんどん話せって。 だから柊生君、彼が話し出したら ちゃんと 聞いてあげてほしいんだ。 はぐらかしたり、気を使って無理に忘れさせようと したりしないで。 …きっと柊生君にとっても 辛い内容だろうけど」 柊生はエレベーターのボタンをじっと見つめたまま 唇を噛んで話しを聞いていた。 「あんまり拗らせるようなら、ちゃんとした クリニック紹介するし 柊生君が辛かったら俺も話し聞くよ いつでも連絡して。また出動する」 言いながらグーで柊生の胸を押す。 「…また奢らせる気だな」 「ばれたか」 二人で笑って、柊生がもう一度エレベーターの ボタンを押した。 「……いつも急でごめん」 「いいよ。無理な時は無理って言うし 弱ってる柊生君見れるのも貴重だしね」 傑がニッと笑って柊生を見た。 「面白がりやがって」 傑は気することなく、柊生の肩をポンポンと叩いて 涼しい顔でエレベーターに乗り込んだ。 「あ、ありがとな!」 「おう!連絡待ってるよ」 柊生はエレベーターの扉が閉まって、一人になっても もう一度、ありがとう、とつぶやいた。

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