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電話をきって、そっと寝室を覗いた。 和真は先ほどと、まったく同じ格好で眠っていた。 いつもは背中を丸めて横向きになって寝ているのに 今はキレイな仰向けで寝ている。 ベッドの端に座って、じっと顔を眺める。 顔色は良くない。額の痣が痛々しい。 やっと治った口の端も切れて、 どこから見ても暴力による傷だ。 くやしくて、もどかしい。 時間を戻したい。 気づかせないくらい、そっと静かに髪に触れる。 ー 傷だらけで痛々しくてもキレイだ。 ずっと見ていられる。 一緒に横になって頬にそっとキスした。 「ん…」 和真は首だけ少し動かして反応した。 続けて耳の後ろの、柔らかい所にも口づける。 いつも、ここに跡を残したくて仕方がない。 でも、こんな隠しようのない場所につけられたら 和真が恥ずかしいだろうと、理性でこらえている。 ここに顔を埋めると、いつでもバニラのように 甘い香りが鼻について柊生の脳を痺れさせた。 これは自分だけが感じるものであってほしい。 噛みたくて、噛みたくて 獣に戻って行く感覚。 「……大崎さん帰ったの?」 体を抱きしめる柊生の腕に、自分の手を重ねて 和真が目を閉じたまま聞いた。 「うん、あんまり無茶させるなって怒られた」 「…フフ」 「政実君から電話あったよ ごめん、勝手に出た」 「……そ」 「怒った?」 「別に …… でも、何話したの」 「昨日の事……」 和真がゆっくり目を開けて、天井を眺めた。 「居酒屋に警察が行ったらしいよ 昨日の客の様子を確認しに行ったんだな 大将がカズの事だって気づいて心配して 政実君に電話したらしい」 「……俺が襲われたって事、言ったの?」 「うん…でも詳しいことは何も… ただ、襲われたけど未遂だったって事だけ伝えた 噛まれた事も言ってない」 「……そっか」 「怒ってない?」 「ッフ…何回聞くのよ 怒ってないって言ったじゃん」

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