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シチューで軽い朝食を済ませた和真は さっさと席を立って食器を片付けて、 洗濯や、寝室の掃除を始めた。 怪我してるしそんな事俺がやるから…と 言っても、聞かなかった。 傑の言葉じゃないけど、必死で日常に戻ろうと している様だった。 一通りの家事を終えると、今度は外にでかけようと 言い出した。 「服と帽子で怪我は隠せるから、お茶しに行こう」 「いいけど…体調本当に大丈夫なの?」 「平気、平気!」 和真はタートルネックにシャツを重ねて ニット素材のキャップを深く被って出かけた。 冬のカラッと晴れて、乾いた空気を感じながら 手をつないで歩く。 いつも手を繋ぐ時は柊生からで、繋いでいる時は 少し気まずそうに、恥ずかしそうな顔で 回りを気にしながら歩くのに 今日は和真から手を伸ばして、片時も離れず 街を歩いた。 デニッシュの美味しいカフェで休憩中も 良く笑って、良くしゃべった。 「あ、そうだ、明後日からの温泉どうする? キャンセルする?」 「今からキャンセルしたらキャンセル料 結構かかるでしょ?」 「それは気にするなよ。俺、オカネモチ。 カズがやめたかったらやめとこう」 「その言い方笑える」 和真は笑いながらコーヒーを両手で持ったまま 少しの間、うーんと考えた。 「…行きたいな。結構楽しみにしてたんだ温泉旅館 柊生が嫌じゃなければ…」 「じゃ、行こう。俺も楽しみにしてたんだ 観光なんてしないで旅館でのんびり過ごしても 全然いいしな」 「うん!」 洋風居酒屋で飲みながら、軽く食事もして 帰る頃には、しゃべり疲れたのか はしゃぎ疲れたのか、和真の口数は目に見えて 減っていた。 ただぎゅっと柊生の手を握り、体を刷り寄せて 歩く。 「疲れた?タクシーで帰る?」 柊生がそう聞くと、しばらく俯いたまま黙り コクリと頷いた。 ー 珍しいな …。いつもだったら もったいないから電車で帰るって 怒るところだ。

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