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柊生の手のひらの温もりが気持ちいい。 触れられているだけで、優しさが流れ こんでくるみたいだ。 ー 俺はもう少しで、この手を 失うところだった。 考えただけで、背筋が寒くなる。 手が暖まって来た頃、柊生は擦るのをやめて 恋人繋ぎでぎゅっと握ってくれた。 「しゅう」 「…ん?」 「大好き」 チュッと軽く、頬にキスをした。 「……どうした?急に」 柊生が暗闇の中で微かに笑う。 「、、アイツさトイレでさ… 俺の事Ωかβか…… 噛んで突っ込めば分かるって言ったんだ」 柊生の握った手がピクリと反応して 固まった。 「…それでさ、俺…ビビって 逃げようとしたんだけど捕まって… それで…」 和真はごくりと息を飲んだ。 「俺、自分から言ったんだよ フェラしてやるって そうすればレイプからも、番からも 逃げられるかもって思って…」 まだハッキリと思い出せる。 臭いも、痛みも。 「頭を押さえつけられて、屈まされて… 簡単な事だと思ったんだ…番にされる くらいなら…何だってできるって」 握っている手がどちらからともなく 汗ばんできた。まだ指先も冷たいのに。 「でも、できなかったんだよ。 吐きそうになって…ナイフで脅かされても どうしても… そしたらちょうど人が入って来て、俺たちを 見つけて、ウワってなって… これで助かったって思った…あの時…」 ー あの時…… . . 「何見てんだよ、邪魔するなら出てけ!」 頭上で男がナイフを振って叫んだ。 目線だけ動かして、入り口の方を見ると サラリーマン風の男性が、慌ててトイレから 逃げ出すところだった。 まぁそうだろう、こんな所目撃して、すぐに 助けに入れる人間そういない。 それでも誰か、人を呼んでくれるかもしれない 騒ぎになれば柊生も駆けつけてくれるはず。 上手く行けば警察を呼んでくれるかも。 どちらにしても、この男も早く逃げなければ 身が危ない、もう終わりだ。 そう思っていると髪を掴んで引き上げられた。 「…っい…つ!」 「もう時間なさそうだな、ほら、脱げ」

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