サービスエリアで軽い昼食を済ませて 時間を気にする事なく出発した。 「トイレ行こ」 あの事件の日から、和真は公共のトイレを利用する 時は必ず柊生を誘うようになった。 怖いから来て、と言われた訳ではないけれど ひとりで入る勇気はないのだろうと思った。 だから柊生は自分が先に用を済ませても 外には出ずに、必ず、和真が出てくるのを 自然に待った。 和真はこの恐怖心も、きっとすぐに 乗り越えられるだろう。 柊生はそう思っていたから、それほど心配も 楽観もせず、今はただ、子供のように自分に まとわりついて離れられない和真を、愛しく思う だけだった。 あと１０日足らずで和真は仕事が始まる。 その前に少しでも不安が消えて、余計な心配事の 無い状態で、新しい生活に踏み出せるようになる 事を、ただ願った。 「運転変わる？」 「…怖いからいい…」 「何それ、俺 結構上手いよ？」 「最後運転したのいつ？」 「…………」 「即答できないくらい前じゃん！ いい、 いい、俺 運転嫌いじゃないし また今度にして！」 「っちぇ」 落ち着いたら和真の車も買おう。 外で思いがけずヒートを起こしたりしたら 逃げ込める分、バイクよりも安全だろう。 その前にちゃんと運転できるか俺がチェック しなければ！ ゆっくり休憩をとりながら走り 住宅が減って、山道に入ると、少しずつ 雪が路肩につもり、辺りは冬らしい景色に 包まれていく。 和真は窓に額をつけるようにして 目を輝かせて、その景色を見ていた。 もともと色素の薄い目が、光を受けて 黄金色に見えて、運転しながら何度もその 綺麗な横顔を盗み見た。 「めっちゃキレイ あの辺 踏みたい～！」 途中、和真にねだられて車を停めた。 都会の子は雪を見ると、なぜこんなに テンションが上がるんだろう。 ちょっとした広さの野原(？)を見つけて 真っ白の雪の上に足跡をつける。 「気持ち～！！」 笑いながらザクザク足跡をつけて走り回る姿が 可愛くて、可愛くて。 専属のカメラマンにでもなったように 柊生はその姿をカメラで追った。 「撮りすぎじゃん！」 和真はフレームから逃れるように走って 柊生を指差してケラケラ笑った。