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2階の寝室はさらにひっそりとしていて 所々 雪をかぶった木々と、カラッと晴れた空が 大きな窓から見える。 柔らかい色の木製の窓枠が、まるで額のように それを縁取って、1枚の完璧な絵のようだ。 和真がベッドの端に座ってそれを眺めても 風景は何も壊される事なく、絵の中に すっかり溶け込んで見える。 「こんな所にいたら、嫌なこと全部 忘れちゃうね」 和真が振り返って笑った。 「そうだな」 来てよかった。 来るまでは少し不安だった。 あんな事件があってすぐだ 家で2人きりで、誰にも会わずゆっくりと 体を休めて過ごした方がいいのかも… そんな風にも、少なからず考えていた。 和真の肩の力が抜けた、柔らかい表情が見れた。 それだけでもう十分だ。 「ほら、柊生も来て。寝ても景色が見えるよ」 窓に近い方のベッドに和真が横になって 柊生に手を伸ばす。 吸い込まれるようにその手をとって、 一緒に横になる。 「ね、綺麗でしょ」 「本当だ」 「明日、朝起きたらこの景色なんだよ スゴいね」 「…うん」 二人で抱きしめ合って外を眺めた。 「お腹すいた…」 「花よりだんごか」 笑って柊生は先に起き上がると、和真を見下ろした。 「ホテルの方にカフェとか、ベーカリーとか あるっぽいよ。行く?」 「疲れてない?」 「全然、俺も小腹がすいた」 二人で庭を見ながらのんびり歩いた。 舗装されているのか、いないのか、絶妙な バランスの小路を歩いていくと低層のホテルが 見えてくる。 ホテルまで行けば、レストランや お土産売り場も兼ねた売店などがある。 大浴場もホテルから直結していた。 その手前に楡の木に隠れるようにして 小ぢんまりとした古民家のような建物が 建っていて、カフェスペースのあるベーカリーに なっていた。 2人は香ばしい匂いにつられて そこに入り、窓際のカウンター席で 外を眺めながら1時間ほど時間をかけて チョコやベリーの入った甘いパンと コーヒーを飲んで過ごした。

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