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第一章・16話
冬の満員電車は苦しい。
暑い夏とは、また違った不快感がある。
皆が厚着をしている為さらに自由が利かないし、暖房の熱は人の体臭を籠らせる。
息苦しさを感じながらも隣の葵に救われて、公彦は毎日電車に乗っていた。
「大丈夫か」
葵が辛くはないだろうかと、公彦は声をかけてみた。
今日は普段より人が多く、葵は公彦とドアとのサンドイッチにされてしまっているのだ。
電車が揺れて人垣が動くたびに、自分の体が葵に押し付けられてしまう。
申し訳なく思いながらも、密着したその状態に幸福を感じていた。
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