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第一章・17話
「平気」
葵の返事はそっけない。
手には、英文の本がある。
テストに備えて、車内でも勉強中なのだ。
公彦に構ってる暇はありませんよ、と本から眼を離さない。
ちょっと、癪に障った。
昨夜は久しぶりに二人で寝たのに、一度しか愛し合っていない。
普段なら夜中に起き出して求めれば、受け入れてくれる葵なのに。
ひくり、と下肢が蠢いた心地を感じた。
満員電車で、密着した体。
顔も触れ合うほど近いし、腕は葵の体に重なっている。
ちょうど掌が腰辺りに来ているのだ。
鼻には、甘い香り。
車内の熱気で、公彦はだんだんのぼせてきた。
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