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第一章・22話

   ホームには冷たい風が吹き抜け、先程までの熱気がどんどん体から奪われてゆく。  だが、葵は動くことができなかった。 「大丈夫か?」  さすがに反省したのか、公彦が顔を覗き込んでくる。  具合が悪くなったのでは、と思っているのだろう。  いや、その逆。  具合が悦くなりすぎて、動けないのだ。 「ね、公彦。……したい」  公彦は息を呑んだ。  見上げてくる葵の顔は赤く染まり、その眼がうっとりと潤んでいる。  電車の中で、衆人の中でいたずらしたのだ。  ひっぱたかれるかもしれない、とさえ思っていたのに。

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