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第一章・32話

「満足したか」  やけに冷めた、公彦の言葉。  だが、少し上ずっている。  彼もこんな事をするのは、初めてだったに違いないのだ。 「はぁ、あぁ、はあッはぁ……んぁ……」  言葉にならない葵の返事。  その後、入れ替わり立ち代わりで人がトイレ内に入ってきたが、個室に二人で潜り込んでいることはバレなかった。  ぴくりとも動けず、口で荒い息を整える葵の気配は、誰にも気づかれることはなかった。

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