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第二章・11

 恥ずかしいから、出来るまで見ないでね。  こんな『鶴の恩返し』のようなことを言って、扶実はキッチンに籠った。  どんな料理なんだろう。 「初めに、俺の母さんのことを話しておけばよかったかな……」  肇は、弱気になっていた。  料理がもとで、恋にも弱気になっていた。  また、彼を失うようなことになったら。  扶実は、素敵な恋人だった。  明るくて、素直で、清潔で。  笑顔が素敵で、手が柔らかくって、キスは温かかった。  失いたくない。  扶実を。  でも、母さんの味にこだわらずにはいられない俺も、ここにいる。 「できたよ~。キッチンに来て!」  扶実の声に我に返った肇は、ドキドキしながらキッチンへと向かった。

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