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第6話

朝目覚めてみると自分の身体はきちんと清められ、いつも寝間着に使っている浴衣を着せられて布団の上で寝ていた。 昨日の事は夢だったのかと思ったが、隣で寝ている存在の温もりに現実に引き戻される。 首の下には相手の成長途中のうっすらと筋肉のついた腕があり、腕枕というものをされてるい状況だ。 「流石にこんないい歳したおじさんが手を出したのはまずいな…」 改めて状況を確認するとまだ寝ている橋羽の姿が目に入った。 若者らしいTシャツにジャージ姿で寝ている橋羽を見て、私は自然と笑みがこぼれてしまう。 私は橋羽を起こさない様に、そぉと布団から起き上がって浴室に足を進めた。 いくら身体を清められているといっても、汗を洗い流したかったからだ。 「うわっ」 浴衣を脱いで中に入り、浴室に備え付けられている鏡に映る自分の姿に心底驚いた。 身体中に鬱血痕が散りばめられ、どれも紫色に変色している。 首や胸を中心に太股の内側や足の付け根にまで痕がついていた。 どれだけ強く吸えばこんな色になるんだろうと半分呆れつつ、すぐに消えるものでも無いので気持ちを切り替えてシャワーのコックを捻って熱いシャワーを浴びる。 カチャッ 「おはようございます。まだ汚れてました?」 「おはよう。後始末をしてくれてありがとう。綺麗になっては居たけど、汗を流すだけだよ。濡れてしまうから出ていってくれないかな?」 浴室の扉が開く音に、大体の予想はついていたがそちらをちらりと見る。 扉から橋羽がいつもの無表情でこちらの様子をうかがっていた。 私は浴室から出るように促すと、素直に扉を閉めたので大きなため息をついて身体を清める作業を再開する。 石鹸を手の上で泡立ててスポンジに泡を移す。 「僕も一緒に入ります…」 素直に出ていったはずの橋羽は、今度は服を脱いだ状態で浴室に戻ってきた。 しかも表情はいつもの無表情なのだが、心なしか嬉しそうなのには言葉を失う。 「今入浴中なのですが?」 「だから一緒に入って、巽の身体を洗ってあげる!」 私が少し不機嫌そうに表情を作ると、橋羽は見たことも無い様な満面の笑顔で返してくる。 いつもは私の事を“あなた”と呼んでくるのにいつのまにか名前呼びに変わっているし、一人称も私の真似ではなく“僕”に戻っている。 ちょっと珍しい物を見る目で見ていたら身体を洗うスポンジを奪い去られていた。 「ふふふ。これじゃまるで介護ですね」 「巽」 バスチェアに座る様に促され、そこに座るとスポンジを更に泡立てて甲斐甲斐しく身体を洗われていると何かされるのではないかと思っていた事など忘れて笑みが溢れる。 いい歳をしたおじさんが、若い子に体を洗われている状況がどことなく介護みたいで何の気なしに思ったままを言葉にしてしまった。 橋羽が少し頬を膨らませて怒りを露にしているのが可愛らしくて、更にふふふと声が出る。 「では…お詫びと言うことで」 「え?ちょっ!!」 振り向いた時に横目で見えた私の身体に反応しているのもかかわらず何もしてこない橋羽の健気な下半身に手を伸ばし、ついつい泡の着いた手でくしゅくしゅと擦ってやった。 括れや根本などを念入りに洗っているうちに、先端から透明な先走りが滲み出てくる。 あまり石鹸で洗うとしみてしまうので、私は体を反転させてシャワーで泡を洗い流してやった。 ぴくんぴくんと小刻みに震えるぺニスがあまりにも美味しそうに見えて、それを口に含んでやった。 大人と違う成長途中のぺニスは亀頭の部分がつるつるとしているのにぷにぷにと手で触った時とは違う何とも言えない舌触りに、ついつい夢中で舐めてしまう。 「た…たつみ…もっ…」 バスチェアに座っている私の肩を掴んで震えている橋羽に、私は悪戯心がむくむくと沸き上がり根本まで口に含んでちゅうっと強めに吸った。 橋羽のぺニスが舌の上で元気に跳ねるのを感じつつ口の中に溢れてくる精液を味わいながら飲み込む。 “薔薇の棘”なんてふざけた事をさせられていた頃には信じられなかっただろうが、橋羽の精液を美味しいと感じる自分も確かに居て何とも表現し難い気持ちが胸を渦巻いている。 「んっ…ごちそうさまでした」 「巽…キャラ変わりすぎ」 「そう言うあなたも、普段はそんな話し方なんですね」 中に残っている精液まで吸出したところで、口を離すとこれまた珍しく橋羽がふて腐れている様な表情をしていた。 今日は朝から随分と表情が豊かだなと呑気に思いながら口の端に着いた精液を指先で拭う。 「普段は感情を表に出さない訓練を受けて居ますからね」 「訓練?」 「学校は倶楽部が運営しているので、私たちはそこで訓練を受けるんです。訓練も適正に応じて内容が違いますが、私は“執事”の訓練を受けていますよ?」 口調が戻ってしまった橋羽の言葉に私は呆然としてしまった。 まだ年端も行かぬ子供は、まだ自我が薄く思想や技術面においてもスポンジの様な状態なので徹底的に大人の都合の良いように教育していくのだろう。 私はそれがなんだか恐ろしく、お互いが裸だということを忘れて橋羽をぎゅっと抱き締めた。 先程“悪戯”したせいか、トクントクンと少し早い心臓の音が聞こえてほっと息をつく。 「どうしました?私は現在、巽のところに居るので実地訓練は受けていませんよ?」 何でも無いように笑う橋羽の表情を見ているだけでも辛い。 相手が仕掛けて来たコトとはいえ、まだ子供に手を出してしまったのはそもそも我慢ができなかった私の自制心が足りなかったからだ。 まだまだ倶楽部の事や橋羽の事も知らない自分に対して自己嫌悪に陥る。 「その話はここを出てから聞きます」 「はい」 まだ残暑が残る時期で、日が登り始めるとまだまだ暑い。 しかし、今の私は腹の底にひんやりと冷たい物が居座っているようで暑さなど感じなかった。 先に上がらせた橋羽を追うように私も浴槽から出る。 軽くタオルで水気を拭ってなら浴衣を羽織り自室に戻ると、首筋が隠れるハイネックのサマーニットを着込み居間に足を向けた。 居間では短時間の間に朝食の準備がされ橋羽も風呂場での事などおくびにも出さず何時もの様子に戻っている。 「暑くないんですか?」 「前から気になってたのですが、あなたも暑くないんですか?」 私の姿を見た橋羽は開口一番に服装の事を聞いてきた。 しかし、私に言わせれば残暑厳しいこの時期に学ランを着ているのも十分暑そうに見える。 「この学ランは一応夏用ですし、学校は空調が効いてますので」 「最近の学校はハイテクなんですね…」 「まぁ私達は身体が資本なところがありますからね」 「そ、そうですか…」 やぶ蛇だったなと思いつつ味噌汁に口を付けた。 私も渡瀬との生活で、ある程度料理はできるのだがどうも朝は苦手なのだ。 だから、最近では橋羽が朝食を作るのが日課になってきた。 「お味噌汁…上達しましたね」 「鰹節から削るとは思ってませんでしたけどね」 「先代が食へのこだわりが強い方でしたから」 私は渡瀬との事を思い出しつつお椀の中を眺めていた。 私が大人に叩き込まれた快楽に負け、お客と寝ているのを渡瀬は知っていた様だが私にその事について一度たりとも言われたことは無かった。 ただ、身体を大事にしなさいと1度だけ忠告されたことはあったけれども、それっきりだった。 私はそれがとてもありがたかった事を覚えている。 「ふーん。なら、僕ももっと頑張らなきゃ」 「へ?」 「本当の意味で巽を手に入れなきゃ意味がないでしょ!」 風呂場に居た時の砕けた話し方になった橋羽に、私は一瞬拍子抜けしてしまって間抜けな声が漏れる。 しかし直ぐに笑いが込み上げてきて、お椀を降ろすといつもの癖で袖口で口許を隠しながら笑ってしまう。 着物を着るようになってからついた癖だが、元々渡瀬と暮らすまでは笑うことが少なかったので笑った顔を見られるのが何故だか気恥ずかしくて隠す様に笑っていたのが営業をするようになってから変な形で定着してしまったようだ。 「今更かもしれませんが、貴方の事をもっと教えてください」 「僕も巽の事がもっと知りたいです」 私が改めて橋羽の顔を見ながら思って居る事を伝えると、橋羽も笑って自分も同じだと伝えてくれた。 その日悪いとは思いつつ、学校に欠席の連絡を入れて橋羽を休ませた。 私も、元々客が来るか来ないか分からないような店だが店は臨時休業にして、お互いの事をのんびり話ながら1日を過ごした。 こんなのんびりとした1日を過ごしたのは実はすごく久し振りで、店を継いでから何かと金策やら何やらで忙しくしていたのが嘘の様に穏やかな1日だった。

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