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Santa Baby③

それでも初日はやってくる。 バイトを定時より早めに切り上げてバーに向かう。 開店前の店に山程抱えた楽譜と共に入る。 練習はしてきたけど、やっぱり落ち着かなくて。安心材料みたいなもんだ。 「いらっしゃいま、あ、早かったですね」 後藤はニコリと笑う。 だが、俺を見てうーん、と顔を顰める。 「服って、そのままですか?」 今日はデニムシャツにカラーパンツと普段着の中でも割とかっちりした服装だった。 「ごめんね、服装の事言うの忘れてました。 結婚式の二次会・・・とまではいかないけど、キレイ目な感じがいいですかね」 うん、よく分からないし持ってない気がする。ユウジのをパクってくるか。 「今日は服貸してあげますね」 ウイングカラーシャツに襟付きの黒いフォーマルベスト、黒いパンツといかにもなウエイターの服を借りた。 「サマになってますよ」 と褒められた。 少しピアノを弾いて指を解しているとアリサが来た。 アリサは首から胸元にかけてレース生地になっているノンスリーブにガウチョパンツを着てきた。上下とも黒で、シックな印象だ。 ショートカットの金髪は編み込まれてパールのピンで留めてある。 「いい感じ。キレイですよ」 と後藤は嫌味なく言う。アリサは礼を言いかけて、俺の方を見て、目をまん丸くした。 なんだよ、文句あんのか。 アリサはちょっと頬を染めながら 「・・・カワイイ・・・」 と呟いた。 「なんだそりゃ」 「え、いや、ううん、似合ってる」 ボソボソと言うアリサに俺は楽譜の入ったカバンを突き出す。 「ん。歌えそうなの持ってきた。選んで」 「え、こんなに?!てか決めて来たでしょ?」 「増やした。それに3分の曲で10曲だぞ」 「クリスマスっぽいのもよろしくお願いします」 後藤は冷蔵庫を開けながらのんきにリクエストしてくる。やっぱユルい。こんなぽやっとしたやつがあのいかつい店長と知り合いなのが謎だ。 いや、側から見たらユウジもか。 じゃあ、と何曲かピックアップして、あとは成り行き任せだ。アリサも俺ほどじゃないけど楽譜を持ってきていた。一応ジャズも練習してきたらしい。 「そんなに緊張しなくていいですよ、素人さんが弾いてるの皆さん分かってますから」 アリサの顔が尖る。カチンと来たようだ。 「ムキになるなって。気楽にいけってことだろ」 楽譜を片付けて、カバンと着替えをロッカールームに置いておく。 もう開店の時間になる。 さて、どうなることやら。

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