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Santa Baby④
1番客は、黒縁眼鏡にスーツを着た若いリーマンって
「あれ、祐次くん」
アリサは目をパチクリさせる。
いきなりかよ!
まさか初日の1発目に来るとは思わなかった。
「えへへ、来ちゃいました。アリサさん素敵ですね。ハジメさん、お久しぶり」
祐次は俺を見て固まった。それから顔を真っ赤にして
「めっちゃいい・・・」
と口を覆いながら小声で言った。
「写メ撮っていいですか?」
スマホを素早く取り出してきた。キメ顔で言っても無駄だ。ヤメロ。
「・・・ご注文は?」
他人行儀に言ってやった。客らしくしてろ。
「ヤバい・・・ヤバイですね今の!」
アリサと顔を見合わせてウンウンと頷いている。なんなんだお前ら。さっさと弾くことにした。
「ナット・キング・コール、L-O-V-E」
アリサを見てそれだけ言って、軽快なイントロを弾き始めた。アリサはムッとしていたけど、すぐ歌に入っていったから流石だ。
祐次はポカンと眺めていたが、後藤に呼ばれてカウンターに座り、何やら楽しげに話し始めた。客もポツポツと増えてきて、小1時間もすれば意外にも満席になった。そのタイミングで祐次は
「そろそろ帰りますね。いいものを見られてよかったです」
とホクホクした顔で帰っていった。もう来るな。
弾いてみて分かったが、かなり曲のレパートリーがいる。今日はジャズの定番曲やCMソングなんかをアレンジして凌げたけど、バイトが終わるまで毎日違う曲を弾くなら、下手したら100や200曲じゃきかない。
後藤はそこまではしなくていいと言っていたけど、弾いている最中に
「年配の方が増えてきたから往年の曲お願いします」「お客さん少なくなってきたから静かな曲で」
なんて指示が入った。
客や雰囲気を見て曲を変えるのは思ったより神経を使う。正直ウエイターに駆り出された時はホッとした。
「今度からアリサが曲選んで」
仕事が終わって、帰り道でアリサに言った。
アリサの方が客もよく見えるし、俺もピアノに集中できる。
「分かった。私もレパートリー増やしておくね」
アリサも声に力がない。
「やっぱりまだまだだなあ・・・」
アリサは空を仰いで白い息を吐く。
俺はこのバイトが終われば好き勝手に弾くだけだけど、アリサは違う。プロを目指しているらしいからな。
「俺はお前の歌嫌いじゃねえけどな」
アリサはコートを翻してこっちを見た。そして睨みつけてくる。
「ゲイのくせにそういうこと言ってんじゃないわよ」
「ハア?褒めてやったんだろうが」
「褒めっ・・・!あーもう!アンタってホンッット・・・!」
アリサの顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。
「見てなさいよ!ぜーったい上手くなってやるんだから!」
アリサはぷいと顔を背けて、駅の改札を抜けて行った。
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