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Santa Baby⑤
日が経つに連れて、段々周りを見る余裕が出てきた。
若い客が多いから賑やかなのがいいかな、とか、カップルが結構いるからラブソングがいいかな、とか。
アリサは確かに声がオーダーストップの時間までしっかり出るようになってきた。でも表情は険しい。
「あんまり根詰めるなよ、声でなくなるぞ」
休憩時間にそう言ってやると
「なによ、そういうとこだけしっかり気付く癖になんで・・・」
とかブツブツ言いながら水を飲んでいた。
また演奏する時間になって、Santa Babyを弾いていると、二十代後半くらいの女達がテーブルで顔を寄せ合って何か話している。
こっちを見ながら。
なんだ?クレームか何かか?確かにこの曲は最低なクリスマスソングとか言われてるけど、アヴリル・ラヴィーンなんかもカバーしてるんだぞ。
休憩時間になって、椅子から立ち上がると、あの女達が俺のところに来た。
ヤベエ、クレーム処理とか数えるくらいしかした事ないんだけど。ギリギリまで気づかないフリをしてたけど、女達はすぐ近くまで来た。
その中の髪を巻いた女が神妙な面持ちで言う。
「あの、バイト終わるのって何時くらいですか?」
予想外の言葉にそっちを見ると、他の女達から何故か黄色い声が上がった。
「ホントだカワイイ!」
「よかったら、一緒に飲みに行きませんか」
「あ、都合が悪かったらまた今度でも。連絡先教えてもらっていいですか」
親鳥から餌を貰おうとする雛みてえに女達はさえずる。マジか。なんなんだこの状況。
頭が真っ白になって思わず後藤を見たが、ニンマリとサムズアップをするだけで何の役にも立たなかった。
「悪い。先約があるから」
本当に。
本当に何にも考えずに、この状況から抜け出す為だけに、アリサの手を掴んだ。
「あ、そっか・・・」
「残念だったね」
女達はしょんぼりして席に戻っていった。
「アンタって本当に最低」
アリサから蔑みの視線が刺さる。
「悪かったよ」
「責任取ってよね」
「は?」
「だから、ご飯連れてってよ!絶対!」
アリサはロッカールームまで足音荒く歩いて行った。なんだかとんでもないことをしてしまった気がする。
こっちがうんと言ってないから誤魔化せると思ったが
「最終日にしよっか、ご飯行くの。その、打ち上げ的な?」
と帰り道で言われて詰んだ。
「わかったよ」
その方がああいうのを躱しやすいかもしれないしな。
「え、ホントに?・・・25日だけど、いいの・・・?」
「や、別にいいけど」
「じゃあお店予約しておくね」
「そこまでする?」
「だってクリスマスだよ」
言って、アリサはしまった、という顔をしていた。
「ユウジさんといなくて、いいの?」
顔色を伺うカホみてえな面をする。
毎日顔を合わせてるんだから別に気にすることじゃない。だから
「いいよ」
と言った。
アリサは少し赤くなった鼻をマフラーで隠して、楽しみにしてるね、とやけにしおらしく微笑んだ。
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