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All I Want for Christmas Is You③

「あれ、こんな店あったっけ」 店頭に並べられた電子ピアノが目に止まった。壁にはウクレレだのバイオリンだのがかかっている。バンドマン向けというより習い事をしている層に向けた店だ。 「ちょっと見てっていい?」 ユウジに聞けば、 「いいよ、俺も気になるし」 ヤツも待ってましたとばかりに目を輝かせていた。真っ先にピアノのコーナーに向かう。 「本当に買い替えるのか?」 ユウジが少し寂しそうに言う。 俺は鍵盤を触るのに忙しかった。本物に近いクリアな音にテンションが上がる。 鼻歌を唄うように、指先でLet it Snowを奏でる。 「修理しても持つか分からないし。それに、鍵盤が全部ある方がユウジと色んな曲が弾けるしな」 その方がいいだろ、とユウジを見ると、ヤツも鍵盤を覗き込んでいて、色素の薄い目に戸惑った俺の顔が映っていた。 ん?と穏やかな顔つきで微笑むのを真近で見てしまって、心臓が口から飛び出しそうになって唇を閉ざした。 ヤバい。顔が火照ってきそうなのをどうやって冷ましたらいいんだ。 なんで今更こんな童貞臭い反応が出るんだよ。 ユウジは吹き出して 「自分で言っておいて照れてんじゃねえよ」 と笑ってた。 1つわかった。ユウジと2人きりだと顔が熱くなったり背中が冷たくなったりして落ち着かない。 もう1つわかった。 音楽バカ2人でうかつに楽器店なんか入っていけないということだ。 ピアノだけじゃなくて、楽譜とかギターとかに目移りしているうちにカホを迎えに行く時間が迫ってきて、プレゼント選びはもう諦めざるを得なかった。 残念で仕方ない、本当に。 スーパーで昼飯を買いに行く為にエスカレーターで下の階に降りる。 ふと、降りてすぐ目の前にある、女向けのアクセサリー店が目に止まった。 「ユウジ、あれは?」 店の外に陳列されていたのは、小さなティアラだった。小さなダイヤみたいなのがいっぱいついていてキラッキラなヤツ。 「ああ、なるほどな」 ユウジはもう感覚が麻痺してきたのか、疲れてどうでも良くなったのか、すぐレジに向かっていった。 「なんとかなりそうだな」 にっと人懐っこい笑みを浮かべる。 そんな顔を見るのも久しぶりで、一瞬強く心臓が脈打つ。 「付き合ってくれてありがとな、昼飯好きなやつ買ってやるよ」 「スーパーのだろ。たかが知れてるじゃねえか」 そんなことを言いながらも、スーパーでは高いパック寿司をカゴに押し込んでやった。渋い顔をしてたけど、まあしょうがねえな、ってレジに並んでた。 保育園に向かう途中で俺とユウジは二手に分かれた。カホには内緒で家に荷物を置きに行かなきゃいけなかったから。 「今日はありがとな」 「いや、楽しかった」 「サンタ役って、クセになるよな」 ユウジは悪戯っぽく言う。そういう事じゃない。 「ユウジと2人で遊びたいんだけど」 ユウジは目を丸くする。 ヤベエ、やらかしたか?浮かれすぎだろ俺。 「いいよ、また今度な」 ユウジは笑った。オッケーをもらえただけでこんなに嬉しいのに、ホントに遊びに行けたら多分心臓持たないと思う。 でも、 「じゃ、カホ迎えに行ってくる」 そう言うユウジの顔は父親のそれで、少し寂しくなった。

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