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Warm December④
少しだけ八田に同情した。
八田は確かに見境がないが、来る者拒まず去る者追わずといったタイプだ。最初からこんな風に断っておけば深追いしない。アリサが噛み付いたりしたからややこしくなった。
しばらく歩いた後、祐次は振り返って
「ビックリしましたよ、まるで修羅場じゃないですかあんなの」
と大きく息を吐いていた。
「もー、アリサさんが口出したりするから・・・」
祐次もよくわかっていたようだ。
「なに?私が悪いの?!」
「あ、すみません、お気遣いはありがたいと思っていますよ」
アリサは大人しく引っ込んだ。こっちの扱いもよくわかっているようだ。
「で、ハジメさんちょっかい出されたんですか」
祐次は俺を睨んできた。え、俺が悪いの?
「一回寝ただけだよ」
「ええ?!なにやってるんですか、手を出すの早すぎでしょ?!」
「お前に言われたかねえよ。だいたいアプリで童貞を」
「すみません言い過ぎました」
祐次はすぐに勢いをなくして全力で顔を背けていた。
「それに、声を掛けてきたのは向こう」
ちょっとちょっと、と祐次は手をバタバタさせる。忙しいヤツだ。
「そういうのがアリサさんを怒らせてるって分かります?」
「ん?セックスの話が?」
「アリサさんがピリピリしてるわけだ・・・」
祐次はアリサを見る。
「いやもうホントハジメさんって・・・こんなに鈍い人だとは思いませんでしたよ」
え、俺の方がダメなの?
一回くらい女の子と付き合ってみた方がよかったんじゃないですか?とまで言ってきやがった。なんかお前俺に対して辛辣になってきてないか?
「もう帰ろ。なんか疲れた」
身体がどっと重くなった。深く考えるのも面倒くさい。
「あ、待ってください、1つだけ」
祐次が慌てて呼び止める。
「なんだよ」
「ク、クリスマス、空いてます?」
照れ臭そうに目を逸らしながら聞いてきた。
お前もか。
「アリサとメシ食いに行く」
「え?!ズルイです、抜け駆けして!」
何故かアリサに向かって言っていた。アリサはツンとそっぽを向く。
「祐次も来ればいいじゃん」
祐次もアリサも目を丸くしていた。鳩が豆鉄砲を食ったような顔ってこんなんなのかな。
「なんだよ」
「いえ、いいです。なんだかアリサさんがかわいそうになってきました・・・」
祐次は大変ですね、とアリサを労った。
「また見に行きますね、上手くなりましたよね、アリサさんもハジメさんも。僕感動しちゃいましたよ」
祐次は屈託なく笑う。
こうやってストレートな感想をもらうのは悪くない。アリサも満更でもなさそうだった。
「羨ましかったな、息ピッタリで。僕は楽器も歌もからきしですから」
アリサと俺は顔を見合わせる。
「今度は3人で新年会でもやりましょうか。
また連絡しますね」
祐次は帰っていった。残されて、先に声を掛けてきたのはアリサだった。
「私も帰るね」
「ん。おつかれ」
「・・・ゲイってみんなあんななの?
私、着いて行けない」
背を向けたまま、ポツリと呟く。
俺が口を開きかけたら
「でも、アンタは渡さないから」
アリサは靴音を鋭く響かせ、歩いていった。
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