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Underneath the Tree③
「今日は飯奢ってやるよ」
アリサとバーを出て並んで歩く。やっぱり落ち込んでいるみたいで足は重い。俺の方が少し先に進んでいた。
「予約した店どこ?」
振り返って聞くと、アリサは俯いたまま呟いた。
「いい。行きたいところがあるの」
今度は俺がアリサに着いていく番だった。
アリサは繁華街の方に向かっている。
なんか嫌な予感がした。見覚えのある道だ。確か、八田と一緒にーー
予感は的中した。アリサはラブホの前で足を止めた。
「お前何考えてんだよ」
勝手に入ろうとするから手を引っ張ってしまった。
「好きなんでしょ、セックス 」
アリサは皮肉たっぷりに返す。
「女とは無理だよ、知ってんだろ」
「ヤッてみないとわかんないじゃん」
「お前ホント・・・どうしちまったんだよ」
「好きになっちゃったの!!」
アリサは弾けるように叫んだ。
一瞬、時間が止まった気がした。沈黙が広がる。
好きにっ、て、まさか、いやいや
「・・・誰を?」
「アンタに決まってるでしょ?!」
え、ちょ、マジで?
「俺、ゲイなんだけど」
「知ってるわよ。でも、しょうがないじゃん、
好きになっちゃったんだから!」
アリサの顔はわからなかったけど、耳も頸も湯気が立ちそうなほど真っ赤になっていた。
「だからっていきなりホテルはねえだろ」
「アンタがそれ言う?!他の人とはホイホイ行くくせに。ユウジさんも、いるくせに。
あんな、あんな楽しそうに演奏しちゃってさ」
アリサの肩が震える。
「私、アンタの気を引く為には歌しかないって思ってた。だから、頑張って練習して・・・」
「お前な、俺の為だけに歌やってきたわけじゃねえだろ。プロになるんだろ」
「どうだろうね、バンドの子たち、私以外みんなデビューしたり引き抜かれて行っちゃったしね」
さすがに言葉に詰まった。全然知らなかった。いや、でも、毎日のように来ていたから、バンドはどうしたんだろう、とちらっと思ったことはあったけど。
「もう、私にはアンタと歌しかなかったの。
でも、今日の演奏見てわかっちゃった」
アリサはいまだにこちらを見ようとしない。
「私、ユウジさんには敵いっこないみたいだね。アンタのあんな顔見たことないもん。
あんなに練習したのに・・・」
「ユウジに勝つも何もねえだろ。こっちも勝ち目なんてねえよ」
ようやく出てきたのはいつもみてえな減らず口だった。
「そうだね、絶対振り向いてくれない相手を好きになっちゃうって苦しいよね、よく分かるよ」
また俺は何も言えなくなった。
「ホントに、私じゃ駄目なの?」
もう声だけで涙を溜めているのがわかった。
「・・・ごめん」
いや、だって、他に何が言えるっていうんだ。
アリサはゆっくり振り向く。黒目が不安定に揺らいでいる。長い睫毛で瞬きをするたびに細かな飛沫が舞っていた。
「これでも、なんとも思わない?」
アリサの身体が傾く。両腕を捕まれた。アリサの目線まで引き摺り下ろされて、黒目いっぱいに俺が映って、吐息の香りが分かるくらい顔が近づいていく。
嘘だろ、と思った時には、アリサの唇が俺のそれに押し付けられていた。
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