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第一章・10
空にピアノを与えたのは、音楽教師だった。
不遇な空が、少しでも心慰められるようにと、ピアノ曲のCDを聴かせた。
音楽室のピアノも自由に弾いていい、と許したところ、驚くべきことにたった今聴いた曲を演奏し始めたのだ。
「小室くん、ピアノ習ってたの?」
「ううん。今日が初めて」
何事にも人より劣るΩだが、時折たった一方向にのみ突出した才能を示す人間が、ごく稀にいると言う。
空は、まさにその稀有なΩだったのだ。
ピアノは空を慰め、雅臣との懸け橋となった。
しかし、運命はすぐに二人を引き裂きにかかった。
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