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第一章・26
「でも、雅臣くんにも聴いて欲しいな。僕の演奏」
「ごめん。なかなか時間がとれなくて」
空は、瞼を閉じた。
解ってる。
このお屋敷に来て、痛いほど知ったのは、雅臣くんはすごく優秀で忙しい、ってこと。
世間知らずだった僕も、神一族が日本でどんな存在か解った。
いずれはその家を継ぐ雅臣くんは、僕なんかと遊んでいる暇はない、ってこと。
そして……。
雅臣くんは、僕に触れない。
僕の身体に、触れて来ない。
僕は雅臣くんに買われたのに、一度も抱いてもらっていない。
仕方がない。
一人千円で体を売っていた、汚れたΩの僕なんか抱けないに違いない。
「どうかした?」
「え。あ、ううん。何でもないよ」
甘いはずのお茶が、ひどく苦く感じられた。
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