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第一章・29

 そうだ、と雅臣は身を乗り出した。 「旅行しようか。二人で」 「旅行?」 「音楽旅行。いろんなピアニストの演奏を聴いて回ろう」  素敵だ、と空は目を輝かせた。  それが実現したら、どんなに楽しいだろう。 「でも、雅臣くん忙しいだろ?」 「1週間くらいなら、なんとかなるよ。行こう」  少し顔色の悪い、空。  初めて会ったあの頃に、戻ったみたいだ。  彼を元気づける為なら、何だってしよう。 「日程が決まったら、知らせるから」 「楽しみにしてるよ!」  その日のレッスンは、久しぶりに楽しかった。  先生も、何かいいことがあったのか、と褒めてくれた。

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