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第一章・33

 時が、止まったようだった。 「明日の演奏会、私のために弾いてくれないかな。空」 「雅臣くん、……雅臣のために」 「そう。私のためだけに」  雅臣は、空をそっと抱きしめた。 「舞台の袖で、ずっと見守っているよ」  歓喜で、震えが来た。  雅臣くんが。  雅臣が、キスしてくれた。  卑しいΩだった僕を、抱きしめてくれた。  空の眼に、涙が溢れた。  明日、思いきり楽しんでピアノを弾こう。  雅臣のために。

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