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第三章・14
稀一とのデートでは、蒼生はいつも緊張していた。
ドライブは、フェラーリ。
ティータイムは、星のついたホテルのラウンジ。
そのまま、そのホテルに泊まることもあった。
二人で使うには広すぎる部屋で、壁一面のヴィジョンに映し出される映画を寄り添って観る。
一度に10人は入れそうなバスで泡だらけになり、10人は眠れそうなベッドで愛し合った。
恐ろしく贅沢な、デート。
もちろん、支払いはいつも稀一だ。
一度、せめて半分払います、と言ったことがある。
すると彼はひどく冷めた目つきで、蒼生を見た。
「生意気言うんじゃない。蒼生はいつでも俺を敬ってさえいればいいんだ」
人の上に立つ人間の、怖さを見た気がした。
だから、蒼生はずっと稀一に敬語を使っていた。
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