91 / 107
第三章・20
稀一は、ざっくりと髪をかき上げた。
イラついている時の、彼の癖だ。
「Ωってさ、発情したら見境なしに盛るって言うじゃないか。浮気相手の子じゃないのか?」
「……ひどい」
祝福されないかもしれない、と心の準備はしていた。
それでも、喜んでもらえるのでは、との期待の方が大きかった。
それが、たちまちのうちに斬り刻まれてゆく。
「堕ろすんなら、費用は出してやるよ。手切れ金だ」
「手切れ金、って」
「蒼生とは、これでさよならだ」
「稀一さん……」
「早いうちに病院に行って、いくらかかるか教えてくれ」
それきり、稀一は何も話さず行ってしまった。
ともだちにシェアしよう!