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第三章・20

 稀一は、ざっくりと髪をかき上げた。  イラついている時の、彼の癖だ。 「Ωってさ、発情したら見境なしに盛るって言うじゃないか。浮気相手の子じゃないのか?」 「……ひどい」  祝福されないかもしれない、と心の準備はしていた。  それでも、喜んでもらえるのでは、との期待の方が大きかった。  それが、たちまちのうちに斬り刻まれてゆく。 「堕ろすんなら、費用は出してやるよ。手切れ金だ」 「手切れ金、って」 「蒼生とは、これでさよならだ」 「稀一さん……」 「早いうちに病院に行って、いくらかかるか教えてくれ」  それきり、稀一は何も話さず行ってしまった。

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