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第三章・26

 可愛いだけの男じゃない。  稀一は、初めて蒼生とテニスで対戦した時のことを思い出していた。  どんな球でも、必死で追いかけてゆく負けん気。    そんな彼特有の強さを、思い出していた。 「蒼生、ちょっといい?」 「何ですか、若宮さん」  稀一は、唇を噛んだ。  先だって、自分から別れを切り出したのだ。  蒼生の中では、俺はもう終わった男。 『稀一さん』ではなく『若宮さん』なのだ。  気を取り直して、稀一は蒼生をディナーに誘った。 「妊娠でなくってよかったな。お祝いしてあげたいんだ」 「ありがとうございます。喜んで」  蒼生は、心の中で泣きそうだった。  普通、逆でしょ!?  赤ちゃんできたら、喜ぶものでしょう!?  しかし、今夜が勝負どころだ。  何食わぬ顔をして、蒼生は晩まで過ごした。

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