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第三章・27
稀一はやはり、高級ホテルで豪華なディナーをプレゼントしてきた。
会話はテニスや映画の話題。
稀一がゼミで教授をやり込めた自慢話も、時折混じった。
蒼生は、いつものようにそれらを大人しく聞いていた。
いつもの蒼生を、演じていた。
食事が終わり、誘われるままホテルの部屋へ。
展望台のように大きなガラスの向こうには、月が昇っていた。
「月明かりの下だと、何だか素直になれるよな」
稀一は、あえてその言葉を口にした。
以前、蒼生に告白した時の言葉。
あの頃に戻って、やり直す気でいた。
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