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第3話
躾ける、の言葉に含まれている橘家に対しての明らかな悪意。
奴隷の扱いについて詰められると藍にとっては気分は良くないが、世間的には異端なのが事実だ。
藍はその言葉に乗せられて、舌打ちして奴隷商を睨みつける。
「……いくらだ」
「まぁ、コイツはこのくらいが妥当かと」
奴隷商が出した指を見て、藍はふっと鼻で笑う。
「随分安いな。それで儲かるのか?」
「捨てる予定でしたからね。金が入るのなら一円でも儲けですよ」
その後書類と支払いの手続きを済ませ、淡々と契約が結ばれる。
初めての経験に璃世は内心焦りつつも、ここまで来たらもう引き返せないと腹を括る。
藍に至っては挑発に乗って璃世のとばっちりで買うことになり、やや腹に据えかねるところはあるが己の未熟さと奥歯を噛みながら判を押した。
「では、お二人とも晴れて奴隷をお持ちになりましたね。何か不都合があったらウチには返さずどこかに捨て置いてください」
それだけ言い捨て、そそくさと奴隷商は路地の奥に姿を消した。
安堵の溜息をついた璃世は、自身の奴隷になった青年を見つめる。
おろおろと視線を動かした青年は、勢いよく頭を下げた。
「ほ、本日より、よろしくお願いいたします。ご命令があれば、何なりと」
「おや、奴隷ってこんなに堅苦しいものなのかい?」
「そりゃそうだ。一般的にこっち側が主人だからな」
「うーん……そうか。そういうものか……」
顎に手を当て、璃世は首を捻る。
それからしばらくして何か閃いたように両手を合わせ、笑顔を見せる。
「主人として扱われるのは嫌だから、私の話し相手として気楽にして欲しい」
「話し相手……ですか?」
「あぁ。私は君の声がえらく気に入ってね。よく耳に届く綺麗な響きだ。その声が聞けるだけで良いんだよ」
璃世のその言葉に、藍は頭を抱える。
「お前なぁ……もう、家に帰って両親に奴隷の扱いでも教えてもらえ!」
「父と母に聞くのは嫌だなぁ。あの人たちはちょっと気性が荒いから、奴隷への接し方を見ているとヒヤヒヤするんだ」
「……世間的には、奴隷にとってそれが普通だ」
「……嫌な世の中だね、藍」
「お前は本当に……ったく、もう知らねぇ。好きにしろよ」
藍は自身が買った奴隷の手首についている鎖を軽く引き、「着いて来い」とぶっきらぼうに言って先に歩き出してしまった。
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