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第2話

あーあ、昼のお仕事したくなーい。 だって、男物のかっちりした服も窮屈だしスッピンだし冒険者って事務的な手続きに興味ないし。サイン一つするのにもギルドに来るのを渋るってどういうことよ。 足繁くやってくるのは依頼とランクアップと報奨金の受け取り窓口くらいね。あと鍛錬場かしら。 「アルジェントさん、おねがいします」 「ありがとうございます、こちらへ」 デスクを指差しといたわ。すでにもう紙の束が山積みなんだけど。 んもう敬語キャラも疲れちゃうのよね。でも敬語って女言葉が出にくいし真面目に見えるから便利なのよね〜。 あ、アルジェントって言うのは私の名前よ。シルキーは源氏名ね。 昼の仕事は法律家よ。なんでギルドにいるかっていうと脳筋、あら失礼。法律とか税金とかに疎い冒険者に代わって色んな書類の手続きをするのがお仕事なの。補助金の申請とか報酬にかかる税金の控除とかね。冒険者の代理人ってとこかしら。ちゃんと"テメェら丸投げするのはいいけどこっちの決定に絶対文句言うなよ"って趣旨の書類を一筆書かせてるわよ。 あらまたヴィーノルド・パオロ・ウヴァロッソ・ビアンコの書類?コイツ養子に出された時改名手続きと戸籍変更したはいいけど各種書類の名義変更はしてないのよね。 冒険者になりたてのころは名前が違うってしょっちゅう回ってきたわ。今もたまに来るのよね。 元貴族の坊ちゃんだかなんだかしらないけど、長いのに名前覚えちゃったわよ。 アタシが抱えてる冒険者はコイツだけじゃないんだから勘弁してよね。 前の名前に斜線を引いて、ソイツの今の名前とアタシの名前を書いて終わりの簡単な作業だからさっさと済ませちゃいましょう。 ーーーヴィーノ・アプリティーヴォ 代理人 エイジ・アルジェント    っと。 さ、食堂にご飯でも食べにいきましょ。 食堂に入ったら、女の子やおじさま達からの視線が刺さる刺さる。 ごめんなさいアタシ顔がいいの。 ・・・・・・。 いえホントごめんなさいね。でも想像してみて。 シャープな輪郭で、アッシュグレーの瞳で、淡く色付いたリップで、細めの縁なし眼鏡で、後ろで束ねた長い銀髪にクール顔の二十代後半の成人男性。 はいイケメン。 これアタシ。 ゲイってことは隠してないし、粉かけてくる女の子も相手にしないからみんな「もしかして・・・」って察してる感じかしら。 ただたまにセクハラしてくるおブスなオッさんもいるけどね。いやもうホントおじ様にしか相手されないんだけど。かわいい子たちは寄ってこないんだけど。 なんか高嶺の花って思われてるらしいわね。 ウソそれ誰よ。確かに代々法律家をやってる家の生まれだけど中身はド庶民よ?それにこんなにフレンドリーなのになんで?敬語かしら。敬語キャラがいけないのかしら。 試しに食堂のウエイターの男の子に話しかけてみたわ。 「今日のおすすめは?」 ソムリエエプロンを付けた茶髪の男の子は真っ赤になってる。 「え、えっと、フェットチーネのジェノベーゼと・・・」 「じゃあそれとコーヒーをもらえるかな」 「あ、ハハハハハイ!」 あーーーっやっぱ無理無理無理無理!男言葉ってめちゃくちゃ難しいわ!これ以上喋ったらイントネーションにオカマが出るとこだったわ! ふー、危ない危ない。眼鏡のテンプルを中指でクイッてすると、ウエイターの男の子と目があったわ。ニコッと笑ってあげると、また顔真っ赤にして小走りで厨房に向かって行っちゃった。 「ちょっ、オレ、アルジェントさんに話しかけられた!」 「マジで?!」 「あの高嶺の花に?!」 え、ちょ、オーダーは? なんだかんだ普通にご飯食べられてよかったわ。男の子達がキャッキャしてるのってかわいいけど、どっちかっていったらそういう子達ってネコちゃんの匂いがするのよね。 あーあ、早くスカイ君に会いに行きたあい。  それには早くお仕事終わらせないとね。   「敬語で話さないの、珍しいですね」 私の部下のオーロ・アラーミ君が昼休憩から戻ってきたわ。 1年目の若い子だけどしっかりしていて着々と育ってきてるわね。今は私の仕事のお手伝いをやってくれているの。そろそろ担当する冒険者を1人任せてみようと思っているわ。一人前になってくれたら早く結婚して退職して奥さんやりたいんだけど。 相手がいないけどな!ああああ早く誰かこの仕事から解放してえええ! て、あら、もしかしてオーロ君 「食堂にいました?」 「ええ、あのウエイターの方とお知り合いだったんですか?」 「いえ、そういう訳では」 「とても親しげでしたね」 「そうですか?」 オーロ君はそれきり黙っちゃってデスクに向かっていったわ。なんだったのかしら。この子真面目だけどいつも真顔で表情が読みにくいのよね。せっかくかわいい顔してるのに勿体ないわ。 サインの記入とか書類の訂正とか細々した、だけど膨大な数の仕事をして、オーロ君をさっさと帰して上げるべく定時であがったわよ。 スカイ君に早く会いたいし。 それにサービス残業なんておブスなことさせないんだから。   それから家にダッシュして、フルメイクで今日も『苔庭のイタチ亭』に向かったわ。

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