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第4話

と思っていたけど、オーロ君と顔を合わせたらなんだかそわそわしちゃう。 オーロ君はいつも通りだったけど、意識しちゃうとなんだかしょっちゅう目が合って眼鏡クイッが止まらないわ。定時までなんだか落ち着かなかった。 「アルジェントさん」 「なんでしょうか」 「今日、お時間ありますか。相談したいことがあるのですが」 ええぇぇ・・・アタシ『苔庭のイタチ亭』に行きたいんだけど。 でもしょうがないわね。早く一人前になってもらう為にもわからないことや悩んでることは早めに解消しておいた方がいいもの。 それにかわいい後輩だしね。 って思ってたアタシのバカバカバカ! オーロ君てばなんでよりによって『苔庭のイタチ亭』に連れてくるのよおおぉぉぉ! 仕事帰りだからスッピンだし男物の服のままじゃない! スカイ君もいるし・・・ああ今日もかわいいわ。 でも隣にオーロ君がいるからガン見できないし。 「それで、相談したいこととはなんでしょうか」 もうさっさと聞いてサクッと解決するわよ。 「・・・シルキーさん、という方をご存知ですか」 存じておりますううぅぅ! え、何、どういうこと。はっ、これってもしかして恋の相談?憧れてたって言ってたし。 ってそんなもん拷問でしかないわよ! ああああああどうしましょう。 「一目惚れだったんです。男性だと分かってても、ずっと頭から離れなくて。あんな綺麗な人見た事ありません。銀の妖精のようだった」 お 前 か 。 あんな小っ恥ずかしい名前を呼び始めたの。 ああもうダメ。アタシもお酒頼みましょう。  ノエリオ君がいたわ。なんかそれっぽいもの注文しないとね。 「すみません、ジントニックを」 「え、苺のカクテルじゃなくて?」 手をあげたまま硬直したわ。 え、待って待って、え? ノエリオ君は不思議そうに首を傾げてる。 「シルキーじゃないのか?いつも頼んでるだろ」 「え、何言ってんの」 おぎゃー!素がでちゃったわ! 「だって顔の造りとかパーツとか一緒だし・・・俺、記憶力はいいんだぞ」 ってえらそうに胸を反らすのはかわいいけどってアアアアスカイ君キターーーー!?   「どうした?」 「んっと、シルキーさんが」 ふおおおおお辞めてえぇぇぇ! 「やっぱり・・・そうだったんですね」 ファ?!オーロ君?! オーロ君は真剣な面持ちでアタシをじっと見ている。 「いつもこの時間には来ているのにまだ来ないですし、眼鏡を直す仕草もシルキーさん、いえ、アルジェントさんそのままでした」 冷や汗が背中を滝のように流れまくってるわよ。何にも食べてないし飲んでもないのに吐きそう。 バレたってこと・・・? この場にいるみんなに。 もうおしまいだわ・・・。 だって、だってアタシ、 スカイ君にスッピン見られたってことじゃないのよおおおおぉぉ!!! オーロ君はずっとアタシから目を離さないし、ノエリオ君はオロオロしてるし、スカイ君は訝しげにアタシを見ているし、周りから視線は集まってきているし、ど、どどどどうしよう! 「ウィーーールッ! ウィルおるかーーー?!アンタだぁれがカモネギやねん!」 入り口の扉がスパーン!と開いて、すでに出来上がっちゃってるカモミールが入ってきたわ。 どうしたのかしら、あの子年に数回はああいう酷い酔い方するのよね。それもくっだらない理由で。 あ、ウィルがうさ耳を揺らしながら厨房から出てきたわ。相変わらず綺麗なお顔だこと。 「お客さん、大分おかんむりのようですね。もうお帰り《おかんむり》になったほうが・・・ぶふっ」 「アアン?!舐めとんのかワレェ!」 あーあーもう涼しい顔して火に油注いじゃってるじゃない。店主のテオも冒険者が相手ならひと睨みで黙らせるけど、カモミールが相手じゃ困り顔ね。あ、でもこれってここから逃れるチャンスかしら。スカイ君とノエリオ君も宥めに行ってるし。 「オーロ君、行きましょうか」 「そうですね」 ってオーロ君なんでカモミールに近づいてんのよおおぉぉ!! 「すみません御婦人、これ以上騒ぐと営業妨害になってしまいますよ」 違うから!止めるとかそういう方向じゃないから! 「アア?!なんやねんお前」 ほーらみなさい。 オーロ君をどかしてカモミールに近づいて、こっそり小声で話しかけたわ。 「ちょっと、カモミール落ち着きなさい。何があったの」 「なんやねん!イケメンやからって調子こいとるといてまうぞコラ!」 そうだった。アタシ今男の格好してるんだったわ。カモミールはベロンベロンに酔ってるし。 もう!しょうがないわね! 眼鏡を外して束ねていた髪を解いてやったわ。 それからバサッと髪をかき上げて銀の髪を翻した。 「ちょっとカモミール! 絡み酒なんておブスなマネしてんじゃないわよ。 女がすたるわよ!」 「ほえ?シルキー?」 声を張ってやったらやっと気づいたみたい。 カモミールはふええぇんって抱きついてくるし、従業員の子達やオーロ君はポカーンとしてるし、お客さん達はめちゃくちゃ騒ついているけどもう知ったこっちゃないわ。 「お騒がせしてごめんなさいね」 カウンターにお代を置いて、しがみついてくるカモミールをお姫様抱っこして店を出たわ。 あーあ、冒険者も結構いたけど、明日から仕事がどうなるかなんて考えたくもないわね。

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