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第5話

 11時になって春陽が誠也の席に戻って来た。 「ヘネシー残しておいたよ、ホラ、新しいボトル入れるから最後を飲んでくれよ」 「あ、俺のために残しておいてくれたのか?」 「ああ、ドンペリも飲みたかったら飲んでいいよ」 「今日はいいよ、ボトル入れる日はドンペリは飲まない方がいい。誠也くんだって、別に飲みてえ訳じゃないんだろ」 「ああ、仕事で嫌というほど飲んでるからな、あ、嫌と言ったらお客さんに失礼か」  誠也は苦笑する。誠也のお客さんたちは金持ちが多くて店に行けば必ずシャンパンタワーをしている。値が張るだけあって確かに美味いが本当に味わって飲み、しかも酔いたいときはブランデーの方がいい。胃がじんわり温まる感覚が好きだ。  誠也は渋谷で春陽くんと芳樹くんを見た事を言おうかどうしようか迷っていた。別に春陽くんと付き合っているわけでもないんだから、ラブホテルに行ったと白状されて怒る立場でもなんでもないんだが、だから余計に本当のことをあっさり言われそうで怖い。誠也は遠回しに訊いた。 「この前、渋谷に居ただろう、3日前だよ。月曜日だったかな。仕事で渋谷に打ち合わせに行ったとき春陽くんに似た人を見たんだ。声を掛けようと思ったんだけどさ、誰かと一緒だったろう」 「ああ、月曜日だったら、芳樹と買い物してた。キャバクラで働いてる客がさ、誕生日だって言ってたからハンドバッグでも買ってあげようと思ったんだけどさ、芳樹の方がブランドとか流行りとか詳しいだろ。だからお願いしてショップまで一緒に行ったんだ」  春陽くんはそう言うと新しいボトルの口を開けた。 「そうだったんだ」 「なんで声を掛けてこなかったんだ?」  確かに春陽くんの言うことも当たっている。後を尾けるなんて男らしくないし、バレたときマジ滅茶苦茶恥ずかしい。誠也は途端に困ったような顔になる。でも、楽しそうにじゃれ合いながら歩いている2人を見たら声を掛けづらかったのが本音だ。

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