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第8話

 スマホで時間を確認すると、もう12時近かった。明日は仕事だがちょっとくらいの寝不足でガタガタ言えないし、実は仕事中に居眠りしても図面さえ仕上げれば誰も文句は言わない。誠也は納期を破ったことは一度も無かった。 「春陽くんはさ、12時になっても直ぐに店を出れないだろう。何時ものファミレスで待ってるよ、それに腹も減ってる。ドリアでも食って時間を潰してるからな」 「ああ、なるべく早く行く」  誠也はウエイターを呼んで人差し指でバッテンを作った。閉めてくれという合図だ。ウエイターは「有難う御座います」と言ってお辞儀をした後、カウンターでレジを打っていた。 「慌てず、ゆっくり来いよ」 「うん、1時までには行けると思う。着替えねえからな」  春陽くんは黒い質のいいスーツを着ていた。ネクタイはネズミの柄で客の受けを狙ったんだという。でも笑えるというよりカッコいい。  ウエイターが伝票を持ってやって来た。ボトルを入れたから少し高かったが誠也はホストクラブで働いているので内情は分かる。見栄を張らずに焼酎などの安い酒を飲んでいればいいのだが、歌舞伎町の売れっ子だという変なプライドもある。結局高いお金を払い、「お釣りは春陽くんにあげてくれよ」なんてカッコつけてしまった。まあ、これでドンペリも入れていたらカードじゃなくちゃ払えないくらいだったと思うから春陽くんに感謝だ。

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